大麻=違法。
世の中ではそんなイメージが強いかと思います。
しかし実は、日本の法律でも大麻草については「すべてがNGではない」ことはあまり知られていないようです。
むしろ大麻に含まれる「CBD」を始めとするカンナビノイドという成分は一部の疾患に効果がある可能性を持つとして医療分野で注目されているほか、リラックス効果があるとしてオイルなどの形で国内でも市販されています。
製造業や医療分野でも注目されているCBDとは何か?大麻とマリファナは同じものなのか?
今回はそんなお話をしていきます。
大麻草と日本人
実は日本人は稲作よりもはるかに前、1万2000年前から大麻を栽培し利用しています。
成長が早く3メートルまで成長する茎から取れる丈夫な繊維は、布や紐の原料として重宝されます。今でも麻製の布は衣料品に使われ私たちは身に纏いますし、麻紐は編み上げられてしめ縄や神事にも使われています。
繊維だけでなく、その種はわたしたちがよく口にする「七味唐辛子」のうちの一味です。大麻の種子は高い栄養素を含み、古代中国でも「五穀」(当時は麻、麦、粟、豆、稷、麦または稗)のひとつに数えられていました。
現代の日本でも動物の飼料として年間1000トン程度が発芽できないように加工された状態で日本に輸入されています。近年でも麻の実は「ヘンプシード」としてオイルなどの形で販売されており、栄養価の高いスーパーフードとして注目されています。
さらに麻の実には3割ほど油が含まれており、古くは燈明の油として用いられていました。
大麻は、まさに衣食住にわたってわたしたちの生活を長く支えている存在といえます。
なぜ悪者になった?
大麻、麻、ヘンプ、マリファナ…
実はこれらはすべて、同じ植物「カンナビス・サティバ・エル」のことを指しています。アサ科の一年草です。
しかしわたしたちはこれを利用したり実を食べたり、一方で違法なものと考えているわけです。
以前、安倍晋三前首相の妻である昭恵氏が大麻草農家と一緒に畑で撮影した写真がSNS上で物議を醸しました。「昭恵氏は違法なものを作る人と手を組んでいるのか」など炎上気味にもなったのです。
ただ、これは「大麻=なにもかも違法」という偏った見方による部分がほとんどでしょう。今でも大麻草の農家は日本に存在し、衣料品や縄、七味唐辛子の原料を生産しているのです。
このあたり、大麻草について少し詳しく知ることで、誤解を解いていきたいと考えます。
大麻取締法の基本
戦後の1948年にGHQの要請で制定されたのが現在の大麻取締法ですが、まずその第一章第一条に、とても大切なことが書かれています。
“この法律で「大麻」とは、大麻草(カンナビス・サティバ・エル)及びその製品をいう。ただし、大麻草の成熟した茎及びその製品(樹脂を除く。)並びに大麻草の種子及びその製品を除く。”
(引用:g-gov法律検索「大麻取締法」太字は筆者による)
https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000124/20230401_503AC0000000024
つまり同じ大麻草でも、成熟した茎やその製品(樹脂除く)、種子は規制の対象外なのです。
大麻に含まれる成分「カンナビノイド」には種類がある
これには理由があります。
「カンナビス・サティバ・エル」は約120種類が報告されていますが、「カンナビノイド」と呼ばれる独特な化合物群を含んでいます。その代表的なものがΔ9-テトラヒドロカンナビノール(THC)やカンナビジオール(CBD)で、それぞれ下のような構造をしています。

https://www.pref.kanagawa.jp/sys/eiken/005_databox/0504_jouhou/0601_eiken_news/files/eiken_news216.htm
分子構造は酷似していますが、この2つが人体にもたらす影響は大きく違います。
THCがもたらすのが麻薬のような生体影響で、高揚感や依存症、認知機能障害などの症状を引き起こします。いわゆる「麻薬」としての人体への悪影響です。
一方のCDBにはリラックス効果があるとされているだけでなく、海外では難治性てんかんや結節性硬化症患者の治療に使われています。FDA(=米食品医薬品局)はCDBを稀で重篤なてんかんの2つの形態であるレノックス・ガストー症候群またはドラベ症候群に伴う発作の治療薬として承認しています。
実際、大麻草の部位ごとのカンナビノイド含有量は花穂で10~12%、葉で1~2%、茎で0.1~0.3%程度となっています。部位によって全く異なるのです。
なお、日本では大麻取締法令和7年3月1日に大麻取締法の一部が改正され、第一種大麻草採取栽培者は、「Δ9-THCの濃度が0.3%を超えない大麻草」の種子等を用いて栽培しなければならない、とされました。
製品製造の環境には注意が必要
ただ、扱いには注意が必要そうです。
というのは、CBDからΔ9-THCに変換される条件が存在するからです。
ひとつには、CBDを加熱装置により250-400℃に瞬時に昇温し5分間加熱したところ、Δ9-THC, Δ8-THC, cannabinol (CBN), cannabichromene (CBC)が,不活性条件下(ヘリウム中)でも酸化的条件下(9%酸素/ 91%窒素中)でも生成したということです。
また、酸性条件下では下のような形での変換の可能性も指摘されています。

https://www.mhlw.go.jp/content/11120000/000957908.pdf
これらに関しては今後じゅうぶんな検討が必要でしょう。
大麻と近未来の産業
しかしいま、産業界の大麻に対する期待はぐんぐん高まっています。
繊維の丈夫さはプラスチックの代替として注目され、EVの内装や車体の複合材料に使われる例も増えており、2019年にはポルシェが車体に繊維からできた部品を使ったレーシングカーを作っています。堅牢で軽量、そして植物というサステナブルな材料である一面が評価されているのです。
食品としても、種子には牛肉と同じくらいにタンパク質が豊富で、かつ良質なアミノ酸、食物繊維、オメガ3脂肪酸も多く含まれています。こうした特徴を生かして代用肉などの開発が進められています。
さらにスイスでは「サステナブルなビールの原料」として注目されています。スイスでは麻の花は工業生産の過程で生じる廃棄物と考えられています。
しかしビールの原料に使われるホップの4分の3をヘンプの花で代用したラガービールを作り出したところ、ブラインド・テイスティングでは100%ホップを使用したビールと区別がつかなかったといいます。廃棄物がビールに化けたのです。
また、大麻草の水の使用量に対する生産性は綿の5.2倍であることも発見されています。
少ない水で効率的に育つ、まさに気候変動に強い植物と言えるでしょう。
先にもご紹介した医療への応用も含め、大麻草の用途や期待されている機能は様々です。
日本国内ではTHCをほとんど含有しない大麻草への品種改良を進めるところも出てきています。
そもそもは純粋な農作物である大麻草ですが、一部の脱法行為やそれだけが報じられることで悪いイメージが付き、国産の麻の生産は危機に直面しています。
国産の縄でしめ縄を作りたい、神事を行いたい、そのような望みすらはかないものになっているのです。「大麻は違法」という舌足らずのネガティブキャンペーンの威力を感じます。
もちろん麻薬成分の製造や売買、譲渡などは取り締まってほしいものですが、農作物としての大麻草がいかに身近で必要なものなのかを同時に周知していかなければ、今後大麻草を産業のチャンスと考えている国に遅れを取っていくことは間違いありません。


