春先や秋口などの季節の変わり目には、昼間は暖かくても夜になると急に冷え込む日も増えてきます。
この昼夜の気温差が、植物の開花や果実の成長を促すことはよく知られていますが、電気もつくりだせることをご存じでしょうか。
気候変動が深刻化するなか、化石燃料への依存から脱却するため、温室効果ガスを排出しない新たなエネルギー源が求められています。
その一つが、私たちの身の回りにあふれている「熱」です。
たとえば、作業中に熱くなってしまうノートパソコンやエアコンの室外機から排出される熱風、自動車から排出される排気ガスも熱をもっています。
温度差を利用して熱エネルギーを電気に変換する熱電変換技術は、次世代を担う新エネルギーとなり得るのでしょうか。
「熱」は人類が手に入れた最初のエネルギー
およそ50万年前、人類は火と出会い、火から得られる熱を料理や暖房に利用するようになり、生活が大きく変化しました。
食材を加熱することで栄養を効率的に摂取できるようになり、こうした食生活の変化が、人類の脳の発達を促したと考えられています。
火を使いこなし、光と熱を得られるようになったことで、人類はやがて農耕や牧畜を始め、定住するようになりました。
その後も人類は、水車や風車、蒸気機関、さらには化石燃料といった新しいエネルギーを次々と獲得し、文明を発展させてきました。
新しいエネルギーの発見と利用は、産業革命や社会の変革をもたらし、人々の生活を豊かにしてきました。
人類が最初に使用し始めたエネルギーである熱は、現在でもさまざまな形で使用されています。
たとえば、地熱発電は地下のマグマなどで熱せられた高温・高圧の地下水から蒸気を取り出し、タービンを回すことで発電します。
また空気中の熱エネルギーを利用するヒートポンプは、冷媒の圧縮と膨張によって温度を変化させ、冷暖房や給湯に活用する仕組みです。
熱は、人類ともっとも長く付き合ってきたエネルギーの一つです。
熱エネルギーと電気エネルギーの関係
ひとくちにエネルギーと言っても、熱エネルギーと電気エネルギーはその性質も利用方法も異なります。
エネルギーには「仕事をする力」という意味があり、ものをあたためる熱エネルギーや物体が動くことで発生する運動エネルギー、モーターを回したり電灯をつける電気エネルギー、化学反応によって生み出される化学エネルギーなどさまざまな種類があります。
そして発電とは、さまざまなエネルギーを電気エネルギーに変えるプロセスを指します。
熱エネルギーを電気エネルギーに直接変換して発電する技術は、長らく研究されていますが、未だに実用化には至っていません。
さきほど、熱利用の例としてあげた地熱発電熱も、最終的にはタービンを回すことで生じる運動エネルギーによって発電しており、熱そのものを電気に変換しているわけではないのです。
熱エネルギーを電気エネルギーに直接変換するときに必要となるのが、「酸化還元反応」です。
高校の化学の授業でも習う「酸化還元反応」とは、物質が電子を失う「酸化」と電子を受け取る「還元」が同時に進行する反応のことです。
タービンを介さずに酸化還元反応を利用して発電する技術は、他にも存在します。
たとえば燃料電池は、水素と酸素の電気化学反応を利用して電気エネルギーを取り出す発電装置であり、環境負荷の小さい発電方法として注目されています。

出所)Panasonic「燃料電池とは」
https://panasonic.biz/appliance/FC/enefarm/about_fuelcells.html
このような電気化学反応は電気エネルギーを直接取り出すことができるため、発電時のエネルギー効率が高いところが特徴です。
熱は温度差を利用して発電することができる?
ゼーベック効果を利用した熱電変換
熱エネルギーを電気エネルギーに直接変換することを、熱電変換といいます。
この熱電変換は、ゼーベック効果という現象を利用しています。
ゼーベック効果とは、ある物質の両端に温度差を与えると、その両端に電圧が発生する現象のことです。
物質の両端に生じる電位差によって、電流が流れ発電することができます。

出所)名古屋大学「「熱電変換」って何?」
https://www.nuee.nagoya-u.ac.jp/labs/yoshidalab/old/thermoelectric.html
なんとこのゼーベック効果は、どんな物質でも発生させることができます。
もちろん、物質自体の性質によって生じる電圧は異なります。
さらに、両端の温度差が大きければ大きいほど、発生する電圧も大きくなるという比例関係にあります。
電位差をV、物質の両端の温度差ΔTとすると、以下のような関係式に表すことができます。
V = α ΔT
αは物質に依存するゼーベック係数で、この値が大きいほど、発電効率の良い変換デバイスと言えます。
ゼーベック効果を利用すれば、原子力発電や火力発電といった大きな熱源から、体温などの私たちの身の回りにあるわずかな熱に至るまで、温度差が生じるところであればどこでも電気エネルギーを取り出すことができます。
わずかな温度差で発電できる新しい熱電変換デバイス
2025年5月、電力中央研究所は常温付近のわずかな温度変化で発電が可能な新たな電解液と熱電変換デバイスを開発したことを発表しました。
ゼーベック効果を利用した熱電変換における発電量は、先ほど紹介した式V = α ΔTで示されるように、デバイスに生じる温度差と物質のゼーベック係数に比例します。
そのため、身の回りにある熱を利用したわずかな温度差で効率よく発電するには、ゼーベック係数をいかに高めるかが重要になります。
今回電力中央研究所が発表した新しい電解液は、これまで酸化還元種として使用されていたフェロシアニド/フェリシアニドの水溶液に、テトラブチルアンモニウムフルオリド(TBAF)を加えることで、ゼーベック係数を従来の約10倍まで引き上げることに成功しています。
この新しい電解液を使用して試作された熱電変換デバイスでは、14℃〜23℃程度の小さな温度変化によって、繰り返し発電することができます。

出所)電力中央研究所「常温付近の小さな温度変化で発電できる新たな電解液・デバイスを創出」
https://criepi.denken.or.jp/press/pressrelease/2025/05_16press.pdf?v3
10℃程度の気温変化であれば、季節によっては昼夜の温度差によって自然に発生します。
このようなわずかな温度差で発電できる熱電変換技術は、IoTセンサーなどの電子機器を自立駆動させる電源として活用することが期待されています。
熱電変換技術によって、これまで捨てられていた熱を電気に再利用できれば、エネルギー効率の向上や環境負荷の軽減にもつながります。
発電技術は個性豊かであればあるほど良い
電力業界では、持続可能性と経済性を両立する新たな発電方法として、新エネルギーの活用が長年模索されています。
一般的に新エネルギーという言葉は、温室効果ガスを排出しない、環境にやさしいエネルギーの総称として使用されています。
太陽光発電や風力発電、そして地熱発電など、技術的には実用段階であるものの、コスト面の課題から普及が十分に進んでいないものが新エネルギーに分類されています。
この新エネルギーにはまだ含まれていない、研究段階の次世代のエネルギーの開発も着々と進められています。
たとえば、もともと化学製品の原料として使用されていた水素やアンモニアも、政府が本腰を入れて普及に取り組んでいる次世代のエネルギー源のひとつです。
そして今回紹介した熱エネルギーを電気に変換する熱電変換も、再生可能で温室効果ガスを排出しない次世代のエネルギーの一つとして世界中で研究が進められています。
火力発電や原子力発電、水力発電などの大規模発電は、燃料や発電方法、環境負荷、発電量など、それぞれ異なる特徴を持っています。
エネルギーの多様性を確保することは、エネルギーの安定供給において非常に重要で、リスクを分散することにつながります。
熱電変換による発電量は、現状では微々たるものかもしれませんが、自然界に存在するわずかな温度差で繰り返し自立発電できるという他にはない強みがあります。
今後は生成AIの普及により、世界的に電力需要が伸びていくことが予測されています。
独自の強みを持つ発電技術の選択肢を増やすことは、未来の暮らしを守り、次世代のエネルギー戦略をより強固なものにするのではないでしょうか。


