「A社とB社から内定をもらいました。ごりおさんならどちらに入社しますか?」
時おり学生さんから、「進路」に関するお悩み相談を頂きます。(意外なことに、世間的にはそれほど悩む必要もない、大手メーカーであることが多いです)
背中を押してほしい。判断軸を言語化したい。何か知らない落とし穴がないか確認したい。
とにかく不安を解消し、より良い答えを導き出したい。もはや藁にもすがる思いで、化学ゴリラに質問したのでしょう。
ただ前提として、状況は人それぞれだからこそ、一概に「A社とB社比べた時にこっちがいいですよ!」とは言いにくいのも事実です。
それでも、できるだけ学生さんの不安を和らげたい。
そこで今回はこの場をお借りして、私なりの「考え方」を綴りたいと思います。
不確実性を抱え、歩み続ける
まず、学生さんの不安な気持ちはよく分かります。
人は「見通しがつかない」、「分からない」といった不確実な状況に置かれると、不安に圧倒されます。
ゆえに「行動したり、他人に相談したり」することで、安心・安全を素早く手に入れたくなるのです。
もちろん、これ自体は悪いことではありません。
むしろ問題を放置せず、正解を作り出し、行動に変えていく能力。これは社会人生活では欠かせない力です。
一方で、「進路」に関して同じくらい重要なのは、安易に答えを求めないこと。
言ってしまえば、「不確実性」を抱えながら歩み続けることだと思います。
進路の難しさ
「進路」は、その名のとおり道が続いていきますが、先は見えにくいものです。
仕事なんてなおさらで、やってみないとわからないことがほとんど。
時には、新たな「居住地」や「ライフスタイル」への適応も求められます。
もしかすると、「業界」や「会社」よりも、そこで働く「人」が大事になるかもしれません。
私が思うに、「進路」でいちばん堪える不安は、こうした「出口が見えないこと」。
ずっと不安でいるのは疲れてしまうし、不安でいる時間はできれば減らしたいものです。
答えは外側にあるか
現代は情報にあふれており、さらに生成AIを使えば、膨大なデータから瞬時に答えを返してくれます。
なので、たいていのことは、少し調べれば「それらしい答え」に行き着けます。
だからこそ私たちは、不確実な局面に置かれると、安易に外に答えを求めてしまいがちです。
そして今の状況を「馴染みのあるもの」や「既知のもの」に重ね、分かったつもりになることで、ひとまずの安心を得られます。
もちろん、「小さな課題」であれば、これで問題ないと思います。
日常生活で生じる「小さな課題」はリスクも少なく、「それらしい答え」でも十分に機能するからです。
ただ、時には自分の力ではどうしようもない「大きな課題」が訪れます。
こういった場面では、「答えを出さない能力」が大事になってくるのです。
研究現場のジレンマ
例えば、研究の現場が良い例です。
企業には、脈々と受け継がれるハードモードな研究テーマや、年々要求がエスカレートするお客様を抱えていたりするのです。
そして動かせない制約の中で、多目的・高難度の最適化を、限られた情報で達成する必要があります。
そのため研究者には、一筋縄では解決できない「大きな課題」に向き合わざるを得ない場面が少なくありません。
もしこういった場面で安易に「答え」を求めすぎると、どうなるでしょうか。
表面的な事象しか見ずに隠れた真理を見過ごしたり、解決に躍起になって疲弊し、バーンアウトしてしまうこともありえます。
早々に答えを求めた結果、逆にゴールが遠ざかってしまうのです。
必要なのは「情報」ではなく、「知恵」
では、こうした「大きな課題」を解決するには、どうすればよいのか。
必要なのは、安易な答えをもたらす「情報」ではなく、試行錯誤の積み重ねによって得られる「知恵」だと考えます。
「情報」は過去の記録や他者の経験である以上、「新しい価値の創造」には、自分の頭で考え抜き、実践することで得られる「生きた知恵」も欠かせません。
そして、この「知恵」を得るためには、試行錯誤を繰り返す力、すなわち「不確実性の中でも答えを出さずに、思考を維持する能力」が必要になるのです。
このように、直面する問題がすぐに好転しない状況下でも、投げ出さず腰を据えて耐え忍ぶ能力を、ネガティブ・ケイパビリティと言うそうです。
もちろん企業では、余計な時間や苦労を掛けることなく、効率よく答えを出す、ポジティブ・ケイパビリティをよしとする風潮があります。
ただ、いつでもポジティブ・ケイパビリティが良いわけではありません。
やはり研究の現場においては、「価値の創造」のために、答えを出さずに待つ力も必要だと考えます。
それはお肉を美味しく食べるに、適切な熟成期間が必要なようなものかもしれません。
進路との向き合い方
少し話が逸れたかもしれませんが、これは「進路」も同じです。
先が見えにくい以上、悩みや迷いがあること自体は問題ではありません。
むしろ、課題があるのに「悩む・迷う」を避けることが問題といえます。
つまり、安易に答えを求めすぎると、見たいものだけを見て、聞きたいことだけを聞いてしまう。
その結果、「分かったつもり」になって、探索の幅を自ら狭めてしまうのです。
さらに現代は、不確実性の時代とも言われています。
社会や産業のあり方が変わりゆくなかでは、過去の情報から導いた答えが有効かは分かりません。
だからこそ大事なのは、不確実性を抱えたまま歩み続けること。
つまり選んだ進路に理由を並べて立ち止まるのではなく、「そこで何を見据え、毎日をどう過ごし、何を学ぶか」を考え続けることだと考えます。
まとめ
まとめると、「進路」や「研究」の正解は外から与えられるものではありません。
不確実性を抱えながら自ら歩みを続け、考え抜く中で、自分の中に育っていくものだと考えます。
その過程で重要となるのが、不透明な状況下でも耐え忍び、思考を維持する能力だ、と言うお話でした。
なのでA社とB社を比べた時にどちらが良いかは、即答できるものではありません。
ただ、どちらを選んだとしても、そこが最終地点というわけではありませんし、不確実性の中で考え続けることで、次の道を切り開く力がついてくると思います。
おわりに
今回でごりおコラムは4作目となります。
2作目くらいからネタ切れを感じていましたが、意外と続いています。
これも安易に結論を出さず、締め切りギリギリまで考え続けているからだと思います。
化学工業日報社さま、いつも締め切りギリギリとなり申し訳ありません。。。
そして、こんな化学ゴリラに相談してくれた学生のみなさま、本当にありがとうございます。
「進路」に関する不安は、気づかぬうちに深まってしまうことがあります。
なので、「進路」と言う長い道のりを、同じ場所でぐるぐるするのではなく、もっと前向きに、探検するように歩くイメージが伝わればと思っています。
みなさまが自分の答えを導き出せることを祈っています。


