日本の化学企業で活発化するアクティビストの活動

コラム

日本の化学企業で活発化するアクティビストの活動

日本は今、第3次のアクティビストブームと言われ、米国に次ぐ世界第2位のアクティビスト大国となっている。

1980年代、2000年代のブームと異なるのは、海外アクティビストが急増している点にある。アイ・アールジャパンHDによれば2023年9月末時点で日本市場に参入している海外アクティビストの数は70社に達している。そのターゲットとなっている産業の1つが化学だ。

2025年5月16日時点の大量保有報告をもとにすると、英国のシルチェスター、AVI,香港のオアシス、シンガポールのひびきパースなどが、日本の大手、中堅化学企業の株式を大量に保有し、株主提案などを行うケースも増えている。

こうしたアクティビストが投資する化学企業には東ソー、花王、クレハ、ゼオン、DIC、ダイセル、日本高純度化学など30社に迫る。

割安で上昇の余地大きい日本の化学企業株

何故、今、化学なのか。

Chemical & Engineering News*の取材に応じたオアシスのセス・フィッシャー最高投資責任者の回答が海外アクティビストの目に日本の化学企業が投資先としてどのように映っているか端的に示している。

フィッシャー氏は「日本の上場化学企業は割安で、改善による収益拡大の余地が大きい。魅力ある企業がその魅力を収益性、株価というバリュエーションに反映しきれていない企業が少なくない」と指摘する。
さらに「化学企業は市場が縮小し、供給能力の余剰が目立つ。資本コストを下回っている事業の閉鎖、売却、統廃合を急ぐ必要ある」と言う。

(株価が割安なため)買いやすく、一方で、株価が上昇する余地が大きい。また、海外アクティビストの目には日本の化学企業はつっこみどころが多いということなのだろう。実際、アクティビストが大量保有している化学企業の5割がPBR(株価純資産倍率)1.0を下回っている。

収益性に改善の余地が大きいのは化学企業に限らない。

米国との比較をみてみると、日本の上場企業数は3,800社でほぼ同数なのに対し、時価総額は8倍の開きがある。ROE(自己資本利益率)は2倍を超えている。
この状況に危機感を抱き、コーポレートガバナンス改革を掲げたのが第2次安倍政権だ。2014年には金融庁から日本版スチュワードシップコードが公表され、翌2015年には、東京証券取引所から、上場企業による独立社外取締役の選任や政策保有株式の見直しを目的としたコーポレートガバナンスコードが発表された。

さらに経産省が公表した持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築~」プロジェクト最終報告書がコーポレートガバナンスの強化を促す力となった。経産省の報告書ではROEの目標8%が打ち出され、以降、企業のESG経営導入が進みROE目標を掲げる企業が急速に増加した。

*アメリカ化学会が発行する化学メディア。媒体は紙及びオンライン。

最大のアクティビストは東証

「アクティビストの正体」など、アクティビストに関する多くの著作を持つみずほ証券のエクイティ調査部の菊池正俊シニアエグゼクティブは「最大のアクティビストは東京証券取引所と言われるように東京証券取引所によるコーポレートガバナンスコード、スチュワードシップの導入で、株の持ち合いなどの解消を推奨する動きが出てきたことでアクティビストが株を集めやすくなった」とC&ENのインタビューで話している。

菊地氏はまた「旧アクティビズムとは異なり、現代のアクティビズムは、他の機関投資家の支援取り付けを前提にしており、時価総額の大きな企業もターゲットになっている。
これが大資本を必要とする化学産業でのアクティビストの動きが活発化している要因」と分析する。

さらに「S&P500の企業でPBRが1倍割れの企業は銀行など10社くらいしかない。米国では、PBR1倍割れの企業はトップが解任されるか、買収の対象となる。ありていにいえば、(日本企業の)生ぬるい経営が日米のROEやPBRの差に表れている」と手厳しい。「アクティビストが重視するのはTotal Shareholder Return。同業他社と比較してTSRが低いと、アクティビストの追求の材料となる」と語る。

経営陣はアクティビストにどう向き合うか

アクティビストによる株主提案は化学業界においては多くが否決されてきたが、アクティビストの影響が経営体制の転換に及び、株主総会での議決によりトップ交代が行われた例もある。

アクティビストは、経営陣にはありがたくない存在であったが、正面から向き合い、アクティビストの主張を経営改革のテコにするくらいの取り組みが必要になってきているのだろう。

菊地氏は「アクティビストの眼で、自社を見ることが重要」と強調する。「天動説的思考やしがらみに囚われずに、自社のポテンシャルを最大限発揮しているかという観点から、資本構成や事業ポートフォリオ、オペレーション、組織をフレッシュな視点で見直すべき」と忠告する。

フィッシャー氏は「日本の化学企業には半導体材料など世界的にリーディングポジションを持っているビジネスがあるが、一部の事業が足を引っ張って、全体的な良さが消されているという傾向がある。取締役は経営陣に対してより監督をすべき。すべての事業が収益を上げ、中朝的な持続性を担保していくことをより厳しく見ることが重要だ。それが結果として会社を良くしていくことにつながっていく。日本の化学企業は、その可能性は大きく、改善の余地もまた大きいとみている」と語る。

菊地氏は、著書「アクティビストの正体」のなかで、ニコンの徳成旨亮社長が最高財務責任者時代に著した「CFO思考」のアクティビストに関する一節を紹介している。徳成氏は「株主・投資家のなかで、最もアニマルスピリッツにあふれ、資本主義の「野生」を残しているアクティビスト・ファンドとの対話は最もエキサイティングでやりがいがある仕事」と語っている。化学企業もこうした対アクティビストの経験を積んで、よりタフな経営陣となっていく時代に突入している。

松岡 克守
Chemical & Engineering News契約記者・産業メディアフリーランス・「GoodChemistry」共同創設者