有価証券報告書に添付されている監査報告書を読んだことはありますか?-化学会社のKAM分析

コラム

KAMとは何か?

KAM(Key Audit Matters)とは、監査上の主要な検討事項のことで、当年度の財務諸表の監査において、監査人が職業的専門家として特に重要であると判断した事項になります。また、KAMの報告の目的は、実施された監査に関する透明性を高めることにより、監査報告書の情報伝達手段としての価値を向上させることにあります。

このKAMについては、2021年3月期から一部を除く金融商品取引法監査が適用される会社に対して、監査報告書への記載が求められています。そのため、誰でも2021年3月期以降の有価証券報告書に添付されている監査報告書でKAMを確認することができます。

では、KAMの理解を深めるために、KAMがどのように決定されて報告されているのかについて確認していきたいと思います。KAMの決定プロセスとしては、監査人は、監査の過程で監査役等と協議した事項の中から特に注意を払った事項を決定した上で、その中からさらに当年度の財務諸表の監査において、職業的専門家として特に重要であると判断した事項をKAMとして決定します。

なお、特に注意を払った事項を決定する際には以下の項目を考慮しなければならないとされています。

  1. 特別な検討を必要とするリスクが識別された事項、または重要な虚偽表示のリスクが高いと評価された事項
  2. 見積りの不確実性が高いと識別された事項を含め、経営者の重要な判断を伴う事項に対する監査人の判断の程度
  3. 当年度において発生した重要な事象または取引が監査に与える影響

KAMは、投資家などの財務諸表の利用者が企業の財務情報のうち特に重要な取引やリスクの高い項目を理解するのにも役立つ場合があると考えられます。

KAMがいかに有用な情報を提供しているか理解いただけたと思いますので、実際に化学会社の財務諸表の監査をしている監査人が特に重要であると判断した事項はどのようなものなのかについて確認するため、2025年3月期のKAMを分析していきたいと思います。

2025年3月期の化学会社のKAM分析

EYの化学セクターチームが行った化学業界の連結売上高上位20社の有価証券報告書(2025年3月期)のKAM分析によれば、当該20社の連結財務諸表の監査報告書に記載されたKAMの個数は合計30個でした。そのうち、20個が「固定資産(のれん含む)の減損」に分類されるKAMであり、続いて「収益認識」に分類されるKAMと「持分法投資の評価」に分類されるKAMがそれぞれ2個という結果でした。

「固定資産(のれん含む)の減損」のKAMが多い理由としては、化学会社においては、以下のように減損の検討が必要となる場面があり、かつ、設備産業という特徴から多額の固定資産が貸借対照表上に計上されているため、個々の監査業務において相対的な重要性が高いと判断されKAMになっている可能性が高いと考えられます。

  • 化学会社は原材料からさまざまな製品を製造しており、事業領域が広範囲にわたっている。そのため、必ずしもすべての事業が順調というわけではなく、順調ではない事業がある場合には、当該資産又は資産グループの減損の認識の判定が論点になるケースがある。
  • 多くの化学会社はグローバルに事業を展開しているが、海外子会社の収益性の低下により、海外子会社において減損の認識の判定が論点になるケースがある。
  • 事業環境の悪化等による特定の事業からの撤退に関連して、減損損失の認識及び測定が論点になるケースがある。

なお、20個の「固定資産(のれん含む)の減損」のKAMのうち、6個がのれんについて記載しているKAMという結果でした。のれんは企業買収の際などに発生して貸借対照表に計上されます。化学業界では企業買収が頻繁に行われており、その結果として、のれんがKAMとなっているケースもあるということを読み取ることができます。

企業の財務情報のうち、特に重要な取引やリスクの高い項目を確認できる

KAMの報告の目的は、実施された監査に関する透明性を高めることにより、監査報告書の情報伝達手段としての価値を向上させることにあります。また、KAMの報告は、想定される財務諸表利用者が企業や監査済財務諸表における経営者の重要な判断が含まれる領域を理解するのにも役立つ場合があるとされています。

化学業界においては、汎用品から高付加価値品への転換の流れの中で、収益性の悪化した汎用品の製造設備の減損や高付加価値品への転換を目指す中での企業買収などから発生したのれんの減損などもKAMとして記載される可能性があります。

これまで監査報告書のKAMを読んだことがない方は一度、気になる会社のKAMを読まれてみてはいかがでしょうか。監査の過程で何が重視されたのかを知ることができ、さらには会社の理解も深まるかもしれません。

中里 広光
EY新日本有限責任監査法人 シニアマネージャー
公認会計士 サステナビリティ情報審査人
15年以上にわたり化学業界の多数の監査業務に従事、製造業・化学セクターのMaster認定者(EY新日本有限責任監査法人内の認定制度)としてセクターナレッジの強化に尽力。