EV(電気自動車)界の「ゲームチェンジャー」として注目される全固体電池の開発競争がいよいよ熱を帯びてきました。
EVやPHVの性能を飛躍的に高めるものとして2023年にトヨタ自動車が世界に先駆け全固体電池の実用化を発表して以降、特に中国勢の猛追が始まり量産体制の早期化を競っています。
材料開発も同様です。
全固体電池がなぜここまで注目されているのか、開発の現在地を見てみましょう。
全固体電池とは〜現在のリチウムイオン電池との違い
まず、現在のリチウムイオン電池と全固体電池の違いについて簡単に解説します。
現在のリチウムイオン電池はプラス極にリチウム化合物、マイナス極にカーボン系の材料が主に使われており、充電・放電のときは2つの電極の間をイオンが行き来します。

https://evdays.tepco.co.jp/entry/2024/01/15/000053
このとき、イオンの通り道になるのが「電解質」で、現在の電池はこの電解質が液体(有機溶媒)になっています。イオンは通すけれど液体は通さない「セパレーター」によってプラス極とマイナス極に分けられています。
ただ、液体を電解質としたリチウムイオン二次電池には課題がありました。以下のようなものです。
- 電解液には可燃性の有機化合物が使われているため、電池への負荷が大きくなり温度が上昇すると燃えてしまう可能性
- 有機化合物を含む電解液は、低温では充放電機能の劣化、高温では安全性の懸念
- 急速充電を行う時に電池が発熱し高温になると、電池として本来起こるべき反応以外の副反応も促進されてしまい電池が劣化
一方で全固体電池は下のような構造をしています。

https://evdays.tepco.co.jp/entry/2024/01/15/000053
文字通り、電解質の部分が液体ではなく固体になっています。セパレーターもなく、イオンの移動が早くなる=充電速度の向上、容量の拡大が期待されています。
固体電解質としていま候補に上がっているのが硫化物や酸化物ですが、固体の場合は揮発性や可燃性がなく、発火などのリスクが大幅に下がるのもメリットです。

https://www.smd-am.co.jp/market/daily/keyword/2023/06/key230615jp/
コンパクトでエネルギー密度が高く、安定性もある。まさに理想の次世代電池です。
不可能とされてきた実用化
なお、全固体電池は新しい発見というものではありません。数十年にわたって研究されてきたものです。しかし実用化には至っていませんでした。
最大の課題は耐久性で、繰り返し放充電すると性能が落ちてしまう、この課題を長い間克服できなかったのです。
トヨタの「実用化」発表に市場騒然
そんななか2023年6月にトヨタ自動車が突如、技術説明会のなかで、2027年にも全固体電池を実用化することを明らかにしました。
全固体電池の研究が何十年も解決できなかった課題に「いい材料が見つかった」としています。ついにブレークスルーを見つけたというわけです。次世代EVに全固体電池を搭載することで、10分以下の充電で約1200キロメートルを走行でき、航続距離は現在のEVの2.4倍に伸びるといいます。
このニュースを受けてトヨタの株価は2日間で約11.6%上昇し、時価総額は約3.9兆円も上昇しました。

https://www.smd-am.co.jp/market/daily/keyword/2023/06/key230615jp/
市場の期待がいかに大きなものか、その破壊力もうかがえます。
実際、世界全体の全固体リチウムイオン電池の生産規模は2030年から2040年にかけて急拡大すると試算されています。

https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/joho/conference/battery_strategy2/shiryo3-3.pdf
そしてトヨタ自動車は、長年にわたり硫化リチウムの研究で他を圧倒してきた出光興産と協業を始めています。
中国勢が材料開発で猛追
当然ながら海外勢がこの発表に黙っているわけがありません。
台湾、アメリカ、韓国、中国の電池メーカーがすでに量産に向けた計画を立てており競争は激化、早ければ2026年中に量産体制に入るとしているメーカーもあります。
また、材料開発では中国勢が出光興産を猛追しています。
いま全固体電池の電解質の候補として最も有力なのは硫化リチウムを原料とした硫化物系物質ですが、中国ではすでに8社が硫化物系の電解質を量産しつつあります。
もうひとつが酸化物系物質です。硫化物系と酸化物系にはそれぞれメリット・デメリットがあり、用途も異なります。

https://www.aist.go.jp/aist_j/magazine/20220720.html
さらなる新素材「ハライド系」でも開発競争
さらに、中国勢が巻き返しを狙って研究を進めているのが「ハライド系」と呼ばれる固体電解材料です。こちらはパナソニックと先陣争いになっています。
塩素(Cl)や臭素(Br)、ヨウ素(I)など、ハロゲン(X)と呼ばれる元素とリチウム(Li)、そして金属元素Mから成る化合物群で、典型的にはLiαMXβ といった組成をしています。
ハライド系固体電解質のメリットとして、硫化物系の場合は水に触れると有害物質である硫化水素(H2S)を発生してしまいますがそれがないこと、酸化耐性があり安定していることなどが挙げられています。
IT企業も参画
また、ハライド系電解質の開発にはメーカーだけでなくIT企業も参戦しています。
マイクロソフトは2024年1月、18種類の新規固体電解質を見つけたと発表しました。解析にかかった時間は正味80時間です。
機械学習で固体電解質の素材に存在しうる54元素の可能な組み合わせを調べたところ、計3259万8079種類の仮想的な結晶を得たといいます。これらをAIを使って熱力学的安定性などについて解析した結果、最終的に見つかったのが18種類のハライド系もしくはオキシハライド系の物質でした。
狂想曲の様相も、EV市場が前提だということ
日本国内でもトヨタだけでなく、ホンダ、日産も全固体電池の量産を目指した技術開発を進めています。
ただ、ひとつ念頭に入れておかなければならないのは、全固体電池の需要はまずEV市場の伸びが前提になっているという点です。
日本国内ではEVシフトがあまり進んでいないほか、得意先のアメリカではトランプ大統領がEVを他の技術より優遇せず、EV義務化も廃止、補助金なども撤廃を検討すると表明したところです。
特許取得のための研究も中にはあるのでしょうが、全固体電池への投資の回収はEVの魅力をしっかりとアピールすることとセットであり、EV市場とともにウォッチしていく必要があるでしょう。


