2025年9月3日に、中国の習近平国家主席とロシアのプーチン大統領が北京で開かれた式典に出席した際、中継カメラが偶然拾った2人のやりとりが話題になりました。
その内容は、不老に関するもの。今世紀中に人類は150歳まで生きられるようになるかもしれない、というのです。
再生医療を始めとする医療技術やAIによる製薬業界の進化によっては不可能ではないように見えますが、その頃の世界はどうなっているのでしょう?特にAIはどんな変化を与えるのでしょうか。
長生きが気になるお年頃?
9月3日。各種報道によれば、北京で「抗日戦争80周年」を記念する軍事パレードをロシア・中国・北朝鮮の指導者が並んで観覧したときのことでした。
報道カメラが偶然拾ったのは、習近平氏とプーチン氏の会話です。
習氏が「以前は70歳まで生きる人はまれだったが、最近では70歳でもまだ子供だ」とロシア語で話すと、プーチン氏は「バイオ技術の発達で、人間は臓器移植を受け続けることが可能になる。若返りながら生き続け、不死を得ることもできるだろう」と語ったようです。
さらに話題が臓器移植に及ぶと、習氏は「今世紀中に150歳まで生きられるようになる可能性があると予測されている」と述べています。
習氏は72歳、プーチン氏は73歳。明確な後継者がいないことも、長寿談義のきっかけになったのかもしれません。
臓器移植でどこまで寿命は伸びるのか
たしかに人間の長寿化は進んでいるかもしれません。しかし150歳とは、さすがにそれはどうなのかい?と筆者は思いました。
臓器移植技術の現状
「臓器移植は不老不死への道ではない」。
米ニューヨーク大学グロスマン医学部の医療倫理部門長であり、臓器移植倫理の専門家でもあるアーサー・カプラン教授はナショナル・ジオグラフィックの取材に対してそう語っています。
まずは既存の需要を満たすだけのドナーが足りておらず、広範囲な臓器移植を支えることはできません。臓器不足の解消策としてブタの腎臓を人に移植する「異種移植」の研究に踏み切っているくらいです。
また、脳は今のところ移植ができない臓器です。
再生医療は150歳を可能にするか
では、iPS細胞の発見以来、急発展を遂げている再生医療での長寿化はどうでしょう。iPS細胞での組織再生は様々な臨床試験が行われているところですが、国際幹細胞普及機構は、150歳という具体的な数字が現実的かといえば課題は多い、としたうえで理由を下のように説明しています。
<引用:国際幹細胞普及機構「プーチン氏と習近平氏、マイク切り忘れ?「臓器移植で若返る、150歳も可能」との発言が波紋」>
- 免疫寛容の完全な確立:他家細胞の臨床試験は始まったばかりで、安全性・有効性の長期データはない
- 腫瘍化リスク:ES/iPS細胞には、未分化な細胞が腫瘍化するリスクがある
- 全身的な老化:臓器移植や再生で特定の臓器を若返らせても、細胞レベルや脳機能の老化を完全に止めることは難しい
- 倫理・社会問題:技術の独占、資源配分、人口問題など、技術普及には大きな社会的議論が必要になる
https://stemcells.or.jp/organ-transplant/
こちらも、全身の完全な若返りや不老にはまだ程遠そうです。
AIが救世主になる?
しかし、「人類の寿命が今世紀中に150歳まで伸びる」ことに言及している人物がいます。
「圧縮された21世紀」がもたらすもの
AI開発の米アンソロピックCEOのダリオ・アモデイ氏は「Machines of Loving Grace(慈愛に満ちた機械たち)」と題したエッセイの中で、AIによって医学・生理学が飛躍的に発展した未来を描いています。
物語の前提としてアモデイ氏は「生物学、プログラミング、数学、工学、執筆など、ほとんどの関連分野においてノーベル賞受賞者よりも賢い」などの機能を備えたAIが「比較的早く登場すること」を前提としています。
その上で、「AIを活用した生物学と医学によって、人間の生物学者が今後50~100年かけて達成するであろう進歩を、5~10年で達成できるようになる」とし、これを「圧縮された21世紀」と呼んでいます。この「圧縮された21世紀」においては、自然感染症に対する予防と治療、ほぼ全てのがんの撲滅、アルツハイマー病の予防、その他のほとんどの疾患の治療の改善が実現するとしています。
さらに人間の平均寿命は20世紀にほぼ2倍(約40歳から75歳)に伸びたため、「圧縮された21世紀」ではさらにその倍、150歳になる「傾向」にある、と述べています。
AIの医療進化への恩恵
アモデイ氏が語っているのはAIについての肯定的、希望的未来のように思えますし、たしかにAIによって医療は「圧縮された21世紀」をたどるかもしれません。
ヘルスケアは生成AIの活用が最も期待される領域のひとつとされています。ボストン・コンサルティング・グループは2023年に公表したレポートの中で、治験報告書の作成時間を60%短縮、カルテ作成をAIが支援するといった用途を紹介しています。
しかし、最も大きなインパクトを受けるのが創薬領域です。
創薬は、膨大な数の化合物の膨大な組み合わせの中から治療に効果のある化合物を見つける作業です。厚生労働省の資料によれば、製薬会社が持つ数万種類の化合物ライブラリーから生み出される仮想化合物は10の60乗通りにのぼります。その結果、1200億円を投じて10年以上の開発期間をかけても医薬品開発の成功確率は2.5万分の1以下とされています。
ここにAIのデータベース解析力、生成AIによる分子設計を導入することで開発期間は4年短縮、開発費は1品目あたり600億円削減されるともしています。

https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10601000-Daijinkanboukouseikagakuka-Kouseikagakuka/0000154209.pdf
また創薬の成功確率も約2,500分の1となり、現状25,000分の1に比べ、飛躍的に高まる見込みです。
実際、香港に拠点を置くAI創薬企業インシリコ・メディシンは、AIでデータベースを解析して効率的に新薬候補を探し出し候補物質の設計には生成AIを活用することで、18か月、予算260万ドルでFDA(=米食品医薬品局)から新薬の認可を取得したという事例もあります。
ユートピアかディストピアか
同様にAIによって医療や製薬のレベルが格段に上がるとしているレポートがあります。
オープンAIの元研究者らが発表し話題になっている「AI2027」です。
「AI2027」は自立型AIと人間の関係についての未来予測で、2030年代までの世界の姿が描かれています。
シナリオは2027年11月を分岐点にして「開発競争が加速する場合」と「競争が減速する場合」の2つが描かれています。しかし開発競争が加速する場合では2029年には「ほとんどの病気の治療法が見つかり、貧困も終わる」、競争が減速する場合でも2029年には「多くの難病の治療法が登場する」と述べているのです。
しかし「AI2027」の未来予測は同時に、人間にとって残酷なシナリオです。
AIの開発競争が加速する場合、いずれ経済はAIだけで完結するようになり、ダウ平均株価は100万ドルを超えますが、今度は人間が不要な存在になってしまうのです。人間が不要で排除すべき存在と判断したAIは、あらゆる兵器で人間を駆逐し、その後地球はAIのユートピアに変貌するー。
そんな時代が2030年代半ばに訪れるというのです。
多少過激なシナリオかもしれませんが、わたしたちが150歳まで生きられる身体を手に入れたとしても、AIがそれを許してくれないというなんとも皮肉な末路です。
ちなみに、外交については興味深いシナリオも綴られています。
米中はそれぞれのAIエージェントと相談しながら会談を進め、あるとき中国側のAIエージェントが政府に極秘でアメリカ側のAIに話し合いを持ちかけるというのです。
このような筋でAIの開発競争が進められるのなら、AIは自分たちの存在をも不要とする人類最後の発明品となってもおかしくありません。


