【みずほ環境規制コンパス】 EU・PFAS規制、次の局面へ — 企業はどう動くべきか?

コラム

1.はじめに

 ドイツをはじめとするEU内5か国の規制当局が、PFASの製造・上市・使用(輸入を含む)を制限する包括的な規制案を欧州化学品庁(ECHA)に提出した2023年1月から2年半余りが経過した。当初のPFAS規制案(以下、当初版提案)では一定期間を経てPFASを全面的に規制する原則が示されていたが、産業界から強い反発を受けたことに加え、2024年の欧州議会選挙の結果、EUの政策が従来よりも産業重視に傾いたことを背景に、規制の内容が「現実的な路線」へと軌道修正されつつある。
 その状況を明らかにしたのが、2025年8月にECHAが公表した更新版のPFAS規制案(以下、更新版提案)である。現在、ECHAのリスク評価委員会(RAC)および社会経済分析委員会(SEAC)は実質的に更新版規制案の評価作業の大詰めに入っており、本稿では最新の情報に基づき、更新版提案の注目点等を解説するとともに、企業に求められる「備え」について考えてみたい。

2.RACとSEACによるセクター・トピック別検討状況

 当初版提案に基づくRACとSEACの評価は、セクター・トピック別に実施されており、2025年9月までに「PFASの有害性」、「消費者向け混合物・化粧品・スキーワックス」、「金属めっき」、「石油・鉱業」、「繊維・室内装飾品・皮革・衣料品・カーペット」、「食品接触材料・包装材」、「建設資材」、「フッ素系ガス用途」、「輸送」、「エネルギー」、「医療用機器」、「潤滑剤」についてRAC、SEACともに暫定結論に達した。
 両委員会の会合は四半期ごとに開催されており、今後は、2025年12月以降の会合で、RACが「排出量推定の一般的なアプローチ(廃棄物を含む)」、SEACが「社会経済分析に関する一般的なアプローチ」、「エレクトロニクス・半導体」について議論する。また、「PFAS製造」、「横断的事項(意見書の一般的な側面)」については、RACとSEACの双方で議論が行われる予定である(図表1)。

(図表1)RAC、SEACにおけるセクター・トピック別議論の状況

(注)◎は暫定結論に達したことを示す。
(出所)ECHA公表資料より、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

3.更新版提案の注目点

 セクター・トピック別の暫定結論や継続中の議論の中身については当初、全ての議論が終了するまで非公開となる見通しであったが、ECHAは各業界の関係者等からの強い要望を受け、更新版提案の公表により、当初版提案が提出されて以降の詳細な検討状況を開示するに至った。その情報量は膨大であることから、紙幅の制約上、本稿ではセクター・トピック別の説明は割愛し、更新版提案の全体的な注目点を以下に示す。

(1)対象業種の追加と適用除外・例外適用の拡大

 更新版提案では、当初版提案に織り込まれていなかった以下の8セクターが検討対象に加えられた。これにより、図表1の15セクターとあわせて合計23セクターが新たなPFAS規制で取り上げられる見通しとなった。

  • 印刷
  • シーリング
  • 機械
  • (図表1の医療用機器を除く)他の医療用途(例:医薬品の即時包装、賦形剤)
  • 軍事用途
  • 爆発物
  • 産業用繊維
  • より広範な産業用途(例:溶剤、触媒)

 上記の追加に加え、当初版提案で取り上げられた各セクターに関する協議が行われた結果、制限案の原則である「18か月の移行期間後の完全な禁止」が適用されない製品・用途分類の件数は、当初版提案の29件から更新版提案では87件へと大幅に拡大した。その内訳をみると、制限案の適用除外が3件から10件に増加、移行期間に関する例外適用が26件から77件となっており、これらの増加は産業界が積極的に規制検討のパブリックコメントを寄せた成果ともいえる(適用除外の詳細については、スウェーデン化学品庁他「What you need to know about the updated PFAS restriction dossier」*1のAnnex 2を参照)。
 特に、新たな例外対象として注目されるのが、中古品およびリサイクル由来材料(紙・板紙製品、繊維製品、プラスチック)に関する免除規定である。PFASを含有する製品や部材が既に市場に存在し、再利用や再資源化の過程で新たなPFASの製造・使用を伴わない場合、上述の材料に免除規定が適用される。ECHAは、循環経済の促進や廃棄物削減を図るうえで、二次資源の流通を一律に制限することが環境上・経済上の合理性を欠くと判断し、例外を設けたものと考えられる。

(2)制限オプションの多様化

 当初版提案では、PFASの製造・上市・使用(輸入を含む)について、①18か月の移行期間後の完全な禁止(制限オプション1、通称RO1)、②18か月の移行期間に加え、5年または12年の期限付き例外を伴う禁止(同RO2)、の2択のみが提示されていたが、更新版提案では、禁止を行わずに「ライフサイクル全体にわたる排出を最小化する厳格な条件下での継続使用を認める選択肢」(同RO3)も、以下のセクターにおける特定の細分化用途において検討されることとなった。

  • PFAS製造
  • 輸送
  • エレクトロニクス・半導体
  • エネルギー
  • シーリング
  • 機械
  • 産業用繊維

 いわゆる例外適用扱いとなるRO2とRO3のうちRO3については、更新版提案においてPFAS製造が対象となる旨が示されており(図表2)、今後、上記セクターにおいて、さらなる追加が実現するかどうかや、「厳格な条件」がどのように設定されるかが注目される。PFAS製造については、管理された条件下でポリマーPFASを生産することを目的として、平均排出係数(= PFASの年間排出量 / 施設内で製造されたPFASの年間総量)を制限値以内に抑制することを条件として定めている。

(図表2)更新版提案で示されたRO3の条件

(出所)ECHA公表資料より、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

 なお、例外適用となる製品・用途については、取り扱うPFASの種類、使用の正当性・使用条件、廃棄の安全性を詳細に記した「特定サイト管理計画(site-specific management plan)」の作成・保管が製造・輸入・使用者に義務付けられるほか、硬質クロムめっき等の一部例外を除く殆どの場合において、市場に供給したPFASの種類や年間の推定供給量の報告義務(reporting requirements)が製造・輸入業者や調合業者(フォーミュレーター)に課せられる。

4.パブリックコンサルテーションに向けて準備すべき事項

 RACとSEACの評価は2026年3月に終了予定であり、その後、SEACの 意見書草案に対するパブリックコンサルテーション(60日間)が開催される。2025年10月30日に開催されたECHAのセミナー資料*2によれば、SEAC案に対する以下の情報提供が求められる。

(図表3)SEACのパブリックコンサルテーションで求められる情報

(出所)ECHA公表資料より、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

 特にRO3が検討されているセクターのうち、エネルギー、電子・半導体、産業用繊維に関しては、総合的に適用が「妥当とみられる(Likely Proportionate)」との評価に基づいてRO3が設定される可能性が高いが、輸送、シーリング、産業機械については「十分に効果的ではない(Not effective enough)」と評価されており、追加的な情報がない場合にはRO3が設定されない可能性がある。

(図表4)2025~2055年にRO3が適用された場合の排出削減効果・コスト水準・妥当性に関する予測

(出所)ECHA公表資料より、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

 初回のパブリックコンサルテーションでは、日本から938件の意見が寄せられたが、準備が不十分なまま意見を提出した企業も少なくなかったと推察される。今こそ業界内で連携し、工程条件、排出管理、廃棄管理、情報伝達等に関する客観的な証拠を揃え、排出が十分にコントロール可能であるとEUを含む諸外国へ示していくことが重要である。これによって、フッ素樹脂のリサイクルという新ビジネスの成長も期待できる。日本企業が「守り」の規制対応のみにとどまらず、新たな規制に伴う環境変化をチャンスと捉え、競争力を磨き直す「攻め」の対応にも積極的に取り組んでいくことに期待したい。

*1 スウェーデン化学品庁他「What you need to know about the updated PFAS restriction dossier」

*2 ECHA「Webinar on SEAC PFAS draft opinion consultation」

後藤 嘉孝
みずほリサーチ&テクノロジーズ サステナビリティコンサルティング第2部 環境リスクチーム 課長
官公庁の委託事業として、化学物質管理法規制(化審法、化管法、安衛法、EU REACH、EU RoHS、米TSCA)やESG投資に関する調査・研究に従事。PFASに関するテーマで、企業コンサルティング、セミナー講演(多数)を実施。
堀 千珠
みずほリサーチ&テクノロジーズ サステナビリティコンサルティング第2部 環境リスクチーム マネジャー
化学物質管理法規制 (安衛法)に関する官公庁業務や企業コンサルティングに従事するほか、PFASに関する対外レポートを執筆。