小さな宇宙人とめぐりあい、心を通わせた少年。
会話の手段は、人差し指を付き合わせること。
不朽の名作「E.T.」のお話です。
少年とE.T.は互いの指先をチャンネルに何かを交換しあってコミュニケーションを取っています。おそらく指先から電流のようなものを発しているとか、そういうものなのかなあ、幼心に筆者はそんなことを妄想していましたが、ついにそれが現実になりつつあるようです。
人のからだはある意味ではひとつの生命体ですが、もう一つの意味では電気を通す「モノ=物体」とみることもできます。
この特性を活用して、人体や人間の細胞を電子機器と繋ぎ通信させる、という技術の研究が進んでいます。
「握手」で情報交換する婚活パーティ

婚姻件数が減りつつある中で、マッチングアプリなど婚活サービスを利用して結婚する人は増えつつあります。
婚活パーティもまた出会いの場所ですが、最近その景色が変わりつつあるようです。
従来なら参加者が気になる異性に声をかけたら、その段階でプロフィールメモを交換し、お互いそれを読み込むという形でした。
ただ、この作業が何回も続くと疲弊してしまう参加者も少なくはなかったことでしょう。
そこでいま、あるウェアラブル端末が採用され、注目されています。
イオングループの結婚相手紹介サービス「ツヴァイ」が第1号ユーザーとして導入したのが、腕時計型の端末を装着することで互いの情報を交換できる「HiT」というサービスです。
パナソニックと株式会社QUANTUMによる共同開発のサービスで、端末を身につけた人どうしが握手などで触れ合うと、データの送受信が始まり、タブレットに互いの基本情報を表示させるというものです。
黙って一緒にタブレットに目を落とす。そして無言でも互いを知ることができるのです。
ここには「人体通信」の技術が使われています。
身につける端末には電界を発生させる機能と、情報を送信(受信)する機能があります。
そこで、双方が握手した時に、
- 男性の送信機のIDを女性の受信機に送信
- 男性と女性のIDをBluetoothでタブレットに送信
- タブレットから男性と女性のIDをローカルサーバーに送信
- ローカルサーバーから参加者のプロフィルを検索、タブレットに送信
という通信が成立するのです。データの伝送速度は数キロ~10メガビット/秒程度です。
このサービスの最大のメリットは口下手な人でも言いたいことを伝えやすいという点にあります。
開発関係者は、2年間カップル未成約の女性が無事に結ばれたという事例もあったと明かしています。今まで言い出すことをためらっていた自分の趣味をHiTが代弁して、そこに共感した男性と意気投合したとのことです。
密かに研究進む「人体通信」の世界
「人体通信」の研究は2000年代ごろから進んでいます。大きな脚光を浴びることはなかったものの、その着想はシンプルかつ大胆と言えるものです。
確かに人体もLANケーブルも、ある意味では同じ「導体」です。むしろ人体の方が秘匿性に優れ、ノイズを発生させず、消費電力が少なくて済むという期待すらあります。
人体通信の方式は、大きく2種類に分けられます。
ひとつは先にご紹介した通りパナソニックなどが研究を進める「電流方式」で、人体に送受信機の電極を接触させ、直接微小電力を流すことで通信回路にするものです。
もうひとつはNTTなどが研究する「電界方式」です。こちらは人体と送信機が絶縁状態であっても、送信機側から電圧をかけることで、かけた電圧に応じて人体表面の電界を変化させ、電気信号に置き換えます。
電界方式の通信は、IDカードを直接かざさなくても専用の認証用リーダーに人が触る、座るだけで入退室などの認証ができるシステムとして、アドソル日進などにより実用化されています。両手がふさがっていてもドアを開けられるなどのメリットがあります。
「脳細胞AI」のパラドックス

さて、こうした「人体通信」はまだ想像の範囲内のこととして理解できるのですが、人体を導体、プラスそれ以上の「電子部品」として利用する試みも始まっています。
近年目覚ましい進歩を遂げるAI。コンピューティング技術はどこまで人間の脳に迫ることができるかという挑戦ですが、それならば、脳細胞を部品にすれば良いのではないか。
そんな発想を実行に移したのが「脳オルガノイド」の研究です。
少し聞いただけでは人体通信と同じようなノリに感じてしまうかもしれませんが、その「ノリ」が若干危険なほうに向いているような気がする、嘘のような本当のお話です。
培養した人間の脳細胞(オルガノイド)とコンピューターチップを組み合わせれば、機械よりも高度で人体よりも速い情報処理が可能になるのでは?というような発想です。
果たして脳細胞とは、そう簡単に思い通り動いてくれるものなのでしょうか?
現状では、研究者を満足させることはできているようです。
オーストラリアの研究チームは80万個の脳細胞を訓練して卓球をモチーフにしたビデオゲームをプレーさせることに成功、フィードバックを重ねるたびに腕前は上達していったといいます。また、アメリカの大学の研究チームは脳オルガノイドをコンピューターに接続し日本語の音声クリップの認識に成功した可能性があるとしています。
ただ、高度な思考ができているわけではありません。
もちろんそれは今後の研究次第、と言われればそれまでですが、筆者は脳細胞AIの研究には一つの矛盾を感じます。
というのはAIの研究は本来、いかに人間の脳を人工物で再現できるかというところから始まっているはずです。
しかしそのために脳細胞を部品にしてしまうというのは、結局は人工物での再現の限界を認め、諦めているようなものではないかという気がするのです。
人の細胞、それも意識を司る脳を扱うからには、もちろん今後倫理的な問題も発生してくることでしょう。
レッドオーシャンの泳ぎ方
レッドオーシャン化した分野で一度挙げた手を下ろすのは、いまやなかなか難しいものになってしまっています。株式市場の監視網は細かく厳しく、企業の発信には常に「バズ」を求められるようになりました。
そのような環境で自分を見失わないためには、生産物を「コト化」できるかどうかを考え続けることが重要だと筆者は考えます。
冒頭にご紹介したパナソニックの開発担当者は、人体通信システム「HiT」の成功は「toC」で顧客の体験価値を変える「コトづくり」に成功したことを強調しています。
ブランド名に込めたのは、「ホームラン級のイノベーションは『ヒット』の積み重ねの先に待っている」という思いだとのこと。
技術の先に「コト」を思い描けるかどうか、今一度足元を確認したいものです。それは社員ひとりひとりのモチベーションにも繋がる欠かせない作業となるでしょう。


