国際会計基準(以下、「IFRS」という)は現在、150 以上の国・地域で採用されています。 我が国においても、IFRS 任意適用企業は 290 社を超えており、今後も着実に増加していくことが予想されています。
本稿では、適用が拡大しているIFRSについて、化学業界におけるIFRS適用状況を分析するとともに、IFRS採用のメリット・デメリットを整理した上で、化学業界における主な会計論点について概観します。また、日本基準で議論が進められているのれんの会計処理についても確認します。
化学業界におけるIFRSの適用状況
我が国におけるIFRS 任意適用企業は 290 社を超えており、IFRS適用決定会社も含めるとその数は300社を超えております(IFRS適用済・適用決定会社一覧/株式会社日本取引所グループ2025年12月末現在)。また、時価総額ベースではIFRS適用会社はIFRS適用決定・予定会社を含めると東京証券取引所上場会社の時価総額の49.8%を占めます(「会計基準の選択に関する基本的な考え方」の開示内容の分析 株式会社東京証券取引所 2025年8月8日)。化学業界に目を向けても、化学業界の連結売上高上位20社では、半数以上がIFRSを適用しております。化学業界ではグローバル展開している企業も多く、業界内でも広く普及が進んでいると考えられます。
IFRS採用のメリット、デメリット
IFRS 導入によるメリットがデメリットを上回るかどうかは、企業の経営管理や情報開示に対する考え方、連結子会社数、海外展開の状況、同業他社の動向などによって左右されます。主なポイントは以下の通りです。
1.メリット
(ア)経営管理への寄与
会計方針・決算期・業績指標などの国内外でのIFRSへの統一により、経営管理のインフラが整備されます。特に海外子会社が多い企業ではグループ各社の業績の認識、測定が公正に評価され、事業上の課題も早期に把握できるなど、財務の透明性、ガバナンス向上に寄与します。
(イ)同業他社との比較可能性の向上
IFRSを採用している海外の同業他社との比較可能性が高まり、特に海外投資家とのコミュニケーションが円滑化します。同業他社が海外企業の場合、特にメリットが大きくなります。また、海外投資家に対しても、日本基準とIFRSの差異を意識せずに、IFRSによる業績の説明が可能となり、説明の負担を減らすことが可能です。
2.デメリット
(ア)実務負担の増加
導入段階では、グループ会計方針書の作成や決算期の統一などの一時的な負担が生じます。導入後も、複数帳簿の管理、開示量の増加、日本基準との比較情報の開示、監査法人との協議増加など、継続的な負担が発生します。
(イ)コストの増加
外部アドバイザー費用、監査報酬の増加、システム改修等のコストが想定され、一定の追加費用が発生します。
化学業界におけるIFRSの主な会計上の論点
化学業界が IFRS を導入する際には、検討すべき論点が多岐にわたります。化学業界では、グループ会社数が多く、かつ、装置産業であり固定資産も多額になることなどから、主な論点としては以下が挙げられます。
- 連結範囲
- 決算日の統一
- 有形固定資産(償却方法・耐用年数等)
- 資産の減損
- 従業員給付(有給休暇を含む)
- リース
各論点の詳細は本コラムでは割愛しますが、IFRS適用前の段階から、日本基準においても、可能な範囲でIFRSで求められる会計処理を取り込むことや、会計システムの統合・会計方針の標準化などのインフラ整備を進めることで実務負担を軽減し、円滑な導入につながる可能性があります。
日本基準におけるのれんの検討状況
日本基準と IFRS の主な差異の1つに、のれんの処理があります。
- 日本基準:原則20年以内で規則的に償却し、減損の兆候がある場合に減損テスト
- IFRS:償却は行わず、減損兆候がある場合に加え、兆候の有無にかかわらず毎期減損テスト
両者で上記のような相違があるため、日本基準にもIFRSと同様にのれんの非償却を導入するべきか否かに関して議論されています。のれんの非償却に関しては議論が始まったばかりであり、現在ののれんの会計処理について変更の要否を検討するかどうかも現段階では決まっていません(2025年11月20日時点)。化学産業では事業再編にともない合併や買収がなされ、そこで発生するのれんの償却の有無は再編後の業績にも大きな影響を及ぼす可能性があるなどから、今後の議論の動向を慎重に注視する必要があります。


