トランプ暴風に苦しむのは嫌だけど

コラム

 日本に対するトランプ米大統領の新関税政策が終焉を迎えつつある。いまだ合意に至らない国もあるが、ある程度の先行きが見えつつある。今後の課題の一つは医薬品、半導体という先端分野の関税動向になる。医薬品の関税は200%と言われたことがあったが、米国側の負担が大きすぎ、非現実的としてスタート時点は比較的穏やかになりそうだ。しかし医薬品の世界最大市場確保に向けての投資は急増している。ロシュ、ノバルティスのスイス勢、アストラゼネカ(AZ)などの投資額はいずれも数百億ドルと巨額だ。

 高関税が米国内の医薬品価格を押し上げるのは確実だが。そこで再燃しているのが薬価引き下げだ。日本のような循環的なものになるのかどうかは不明だが、トランプの号令一下大幅な価格引き下げが実施される可能性があった。それも落ち着いたというか、悲劇的な状況にはならないようだが、トランプは米国が突出した高額の医薬品支出を継続させないとの基本は変わっていない。

 米国での大型投資を表明しているグローバルファーマは、トランプが言うように、米国外での医薬品価格引き上げを検討せざるを得ないのだろうか? 米国で利益を確保して世界展開を図るというこれまでのスタイルを放棄せざるを得なくなる。しかし、グローバルファーマは医薬品の経済評価に関するベテランだ。日本、EUなどの厳しい価格制度の荒波に苦しみながら成果を上げ続けてきたのだから。まあ相対的な問題か、とも思う。

 トランプ政権の世界にもたらす悲劇は、経済問題や数多くの人道問題だけではない。米国は科学政策で世界をリードし続けてきた。米国立衛生研究所(NIH)、米国食品医薬品局(FDA)などの政府機関を軸に数多くの科学アカデミーへの巨額投資、人材投入が世界の最先端ライフサイエンスを支えてきた。それが今一挙に崩れ始めている。

 欧州も日本も米国アカデミーからの流出人材確保に乗り出しているが、それは中国も同じだ。現在の中国のITにしろAIにしろ、そして先端医療関連における人材を支えてきたのは米国の政府機関、アカデミーである。この10年ばかりは政治的背景が、自由な人材交流の足かせとなってきたものの、これからはわからない。先端分野の米国優位を脅かすことになると私は恐れる。

 FDAなど人員削減しすぎて再雇用や新たな人材確保を進めているが、拙速な大量首切りをカバーなどできないだろう。嫌気がさした人も数多い。組織のマネジメントクラスは半減以下である。FDAを傘下に持つ米国保健福祉省(HHS)のトップであるロバート・ケネディ・ジュニア氏は国家優先バウチャー(CNPV)などの医薬品開発支援プログラムを始めているが、質・量とも評価し得る医薬品優遇策になるのか、付け焼刃程度のものになるのか?応募することが許認可行政での優遇策に直結しているために、手を挙げる企業は多いだろう。その中身も知りたい。何がどのように判断されるのかを知らないとこれからの3年5か月ばかりを見通せない。

大槻 愼一
ライター 化学工業日報・元記者