CO₂と聞くと、気候変動を引き起こす「元凶」「悪者」というイメージが強いかもしれません。
しかし本来、CO₂は自然界に普遍的に存在する気体であり、むしろ生物が生きていくために欠かせない存在です。
自然の循環のなかに当たり前に存在するCO₂は、人間活動によって急速に増加しました。
その結果、吸収と排出のバランスが崩れ、地球の熱を閉じ込める温室効果が強まり、地球温暖化が進行しています。
近年では、地球温暖化対策としてCO₂を抑制するだけでなく、資源として活用していこうという動きも強まっています。
CO₂を資源としてさまざまな製品を作る技術は、「カーボンリサイクル」と呼ばれ、その手法は多岐に渡ります。
果たして、CO₂を「温暖化の元凶」として捉えるのではなく、資源として積極的に利用していくことは可能なのでしょうか。
CO₂は命の源であり脅威でもある
「私たちが息を吐くのをやめれば、地球温暖化は防げるのかな?」
これは、学校の授業で呼吸の仕組みを習ったばかりの小学生の娘がつぶやいた素朴な疑問です。
言うまでもなく、CO₂と気候変動の関係はそんな単純な話ではありません。
人間が呼吸によって排出するCO₂は、突き詰めれば私たちが食べた野菜やお米などの有機物に由来し、それらはもともと光合成によって大気中のCO₂を取り込むことで作られています。
つまり、人間の呼吸は地球上の炭素循環の一部にすぎません。
現在深刻化している気候変動は、産業革命以降にCO₂を排出する化石燃料の使用が増え、炭素循環のバランスが崩れた結果引き起こされています。
2021年にノーベル物理学賞を受賞した真鍋淑郎さんは、今から50年以上前に、大気中のCO₂の増加によって温暖化が引き起こされていることを世界に先駆けて発表しています。
この成果をきっかけに、世界各国で地球温暖化や気候変動の研究が進みました。
そして現在では、気候変動対策は「いかにCO₂の排出を抑えるか」という課題に集約され、多くの国がCO2の排出削減に取り組んでいます。
炭素の循環を正常化する技術とは
CO₂を排出する化石資源の主な役割は、大きく2つに分けられます。
ひとつは燃やしてエネルギーをとりだすこと、そしてもうひとつは化学反応によって有機化合物を生成することです。
どちらも重要な要素ですが、「化石資源=燃やす」というイメージを持つ方の方が多いかもしれません。
気候変動対策の議論においても、省エネ技術や再生可能エネルギーの活用など、エネルギー由来のCO₂削減に注目が集まりやすい印象があります。
しかし、化石資源によって生成される医薬品やプラスチック、合成繊維なども、私たちの生活には欠かせないものです。
そして、これらの製造にはさまざまな化学反応が必要であり、一定のCO₂排出は避けられないと考えられています。
このように、どうしてもCO₂排出が避けられない分野が存在していることから、CO₂排出を減らすだけでなく、大気中のCO₂を回収して貯留・再利用する、あるいは除去するなどの対策が必要とされています。
CO₂排出自体を完全にゼロにするのではなく、「差し引きゼロ」「実質ゼロ」を目指すカーボンニュートラルはこの考え方に基づいています。
排出されたCO₂をマイナスにするための代表的な技術として、CO₂を回収して地中に貯留するCCS(Carbon dioxide Capture and Storage)と、回収したCO₂を再利用するCCU(Carbon dioxide Capture and Utilization)があり、これらはまとめてCCUSと呼ばれています。
CCUS技術は実用化が進んでおり、2024年には米国テキサス州で、産業由来のCO₂を活用したメタノールの生産が開始されました。
この工場では、最大で年間18万トンものCO₂を資源として有効利用し、燃料として再利用することができます。
さらに、2025年には中国安徽省淮南市でウレタンの原料の一つであるポリオールをCO₂から製造する工場が大量生産を開始しました。
工場の排ガスを原料に転換して素材を製造する取り組みで、年間18万トンのCO₂を直接固定することができます。
これらの技術は、CO₂を資源として循環させる新たな道を切り拓く可能性を秘めています。
CO₂と共生する時代へ 資源化に向けた挑戦
CO₂を回収して燃料や素材に再利用する技術は実用化段階に入っていますが、ほかにもCO₂を資源として活用するユニークな技術が次々と開発されています。
CO₂を食べて育つ 水素細菌の活用
水素細菌(水素酸化細菌)は、水素・酸素・CO₂の3つを食べ、水素の化学エネルギーによってCO₂を有機物に変換し、体内に取り込むことで増殖します。
このバクテリアは、水素さえあれば有機物がまったくない環境でもCO2を固定して生き延びることができるという、特殊な能力を持ってます。
水素細菌を活用すれば、水素とCO₂を原料として、プラスチックやインク、塗料、繊維、化粧品などの私たちの生活に身近な製品の原料を製造することができます。

出所)双日株式会社「「水素細菌によるCO₂とH₂を原料とする革新的なものづくり技術の開発」を開始」
https://www.sojitz.com/jp/news/article/20230804.html
水素細菌によるバイオものづくりは、化石資源を使用しないことによるCO₂の削減に加え、CO₂の吸収・固定もできるため、製造プロセスにおいて「二重の削減効果」が期待されています。
新たな可能性を秘めたものづくりの手法として、世界中から注目を集める技術です。
化学反応でCO₂を吸収するコンクリート
一般的にコンクリートは、石灰石を原料とするセメントを水と反応させることで硬化します。
都市や建築物の基盤として欠かせない材料であるコンクリートですが、セメントの製造過程では、大量のCO₂が排出されます。
そこで開発されたのが、大気中のCO₂と反応して硬化する特殊な材料「γ-C₂S(γ-2CaO・SiO₂)」を使用した、環境配慮型のコンクリートです。
このコンクリートは、CO₂を吸収するだけでなく、使用するセメント量を減らすことで製造プロセスにおけるCO₂の排出も削減できます。
γ-C₂Sは水酸化カルシウムと珪石を原料とする粉末状の物質で、水とは反応しないものの、CO₂と反応して直接CaCO₃(炭酸カルシウム)を生成します。

出所)コンクリート工学「コンクリートの高耐久化や環境負荷低減に有効な多機能材料『γ-C2S』」
https://www.ccjstage.jst.go.jp/article/coj/57/1/57_87/_pdf
この性質を利用して、CO₂が大量に充満する環境、たとえば火力発電所などでCO₂を吸収して材料と反応させることで、コンクリートを製造することができます。
通常のコンクリートと比較すると、CO₂排出量を7割削減できると試算されています。
このCO₂を吸収するコンクリートは、2025年開催の大阪・関西万博の建造物やベンチなどに使用されています。
植物をしのぐ変換効率を実現する「人工光合成」
CO₂といえば、人間の呼吸だけでなく、植物の光合成に使われることも知られています。
植物が太陽の光を使って、水とCO₂からでんぷんなどの栄養を作り出すメカニズムを模倣したのが、人工光合成です。
人工光合成の技術は、人類にとって有用な物質をつくり出すために反応を促す触媒が利用されています。
そのため、より優れた触媒を開発できるかどうかが、各国や企業の研究競争の焦点となっています。
人工光合成の技術は太陽電池にも応用でき、すでに植物を上回る変換効率を実現した例も報告されています。
太陽光を照射して生成された水素イオンをCO₂と反応させ、ギ酸を合成することで、電池としてエネルギーを効率的に貯蔵・利用できる仕組みが実現できます。

出所)豊田中央研究所「実用サイズの人工光合成で植物の太陽光変換効率を超える」
https://www.tytlabs.co.jp/presentation/case-11.html
CO₂を原料として合成できるギ酸は、水素よりも貯蔵や輸送が容易なうえに、お湯程度の温度に加熱するだけで水素を取り出せます。
この仕組みを利用すれば、次世代エネルギーである水素を安全に利用できるため、ギ酸は新しい水素キャリアとしても期待されています。
人類はCO₂を使いこなすことができるのか
CO₂は炭素と酸素が結合した単純な分子ですが、炭素自体は形を変えながら地球上のあらゆる場所に存在し、動植物の生命の維持にも欠かせません。
CO₂は地球の循環に必要な存在でありながら、長い間、地球温暖化問題の主な原因として「悪者扱い」されてきました。
しかし、CO₂の排出をゼロにすることは現実的ではなく、排出削減だけに焦点を当てている限り、脱炭素社会の実現は難しいかもしれません。
私たちの生活や経済の成長を犠牲にすることなく、カーボンニュートラルの実現に向けて歩んでいくためには、CO₂を減らすだけでなく「使いこなす」という発想の転換が求められています。
炭素を上手に循環させるための革新的な技術は次々と登場しており、CO₂を価値のある資源ととして捉える時代が始まりつつあるのかもしれません。


