はじめに
サーキュラーエコノミー(CE)は、単なるリサイクルの延長線上にある概念ではない。一度獲得した資源を最大限に有効活用し、新規の資源投入量を抑えながら付加価値を生み出す、経済システムそのものの転換である*1。地政学リスクの高まりにより資源調達の不確実性が増す中、国内で資源を循環的に再利用する仕組みの構築は、環境対策にとどまらず、経済安全保障や産業競争力の観点からも重要性を増している。
本稿では、まずベイカレントがCEの事業化に向けた課題について、ビジネスモデルや制度面から分析・整理する。そのうえで、オリックスがCEの実装現場で得た知見を紹介しつつ、動脈産業と静脈産業を“つなぐ”立場から、化学産業への期待を語る。
【ベイカレントの視点】CE事業化の課題──ビジネスモデル転換と循環性の視える化
Circular PaaSと定性的取り組みの戦略的価値
CEの目標とその実現の過程では、定量的な数値目標のほか、定性的な取り組みの質も重視される。CEが従来のリサイクル政策と一線を画すのは、ビジネスモデルの転換まで射程に含む点であり、その象徴的な考え方が「Circular PaaS(Product as a Service)」である*2。Circular PaaSは、顧客接点を維持しながら資源循環を事業化することが可能なモデルであり、IRの観点でも、ビジネスの観点でも効果が高いと言える。
仏ミシュラン社は商用車向けにタイヤを走行距離に応じた利用料で提供する「Tire as a Service」を展開し、リトレッド(再生)を前提とした循環を実現し*3、さらにデジタルメンテナンスサービス「MICHELIN Tire Care」により運輸事業者との継続的な接点を構築した。ブリヂストンはサブスクリプションサービス「Mobox」で消費者との接点を創出している。いずれも、メーカーがサービス設計に踏み込み、「売ったら終わり」ではなく顧客との関係を持続させることで、資源循環と収益成長を両立させた好例である。
「循環を前提とした設計」の重要性
前述のミシュランやブリヂストンの事例は、「循環を前提とした設計」の重要性も包含している。ミシュランのタイヤは、リグルーブやリトレッドに耐えられるよう最初から設計されているからこそ、循環モデルが成立する。エレン・マッカーサー財団は、製品の環境負荷の約8割は設計段階で決定されるとしている*4。日本の化学産業はケミカルリサイクルをはじめとする世界トップクラスの技術を有しており、さらに一歩進んで、CE事業化を後押しすべく、最初から「循環しやすい素材」を設計・供給するという上流での貢献も可能だと考える。
EUのエコデザイン規則(ESPR)やデジタルプロダクトパスポート(DPP)の動きも、この方向性を後押ししている*5。制度面でも、循環を前提とした設計が「あるべき姿」から「求められる要件」へと変わりつつあるのだ。
循環性の「見える化」と開示フレームワーク
CEスキームの構築において、「この素材はどれだけ循環的か」を定量的に示すデータがあるかどうかが、連携の成否を大きく左右する。素材の循環性が数字で可視化されれば、スキーム設計の精度が上がり、関係者間の合意形成も格段にスムーズになる。
この点で注目されるのが、2025年11月のCOP30(ブラジル・ベレン)で発表されたGCP(Global Circularity Protocol for Business:ビジネスのためのグローバル循環プロトコル)Version 1.0である*6。WBCSDとUNEPが中心となり、80以上の組織から150名超の専門家が参画して開発された、世界初の科学ベースの循環性測定・開示フレームワークだ。GHGプロトコルがCO₂排出量の「測る共通言語」になったように、GCPは循環性における共通言語を目指している。

一方、国際プラスチック条約(INC-5.2)は2025年8月に合意に至らず、強制力あるルールの整備は遅れている*7。このような状況下では、企業が自主的に循環性を「測り、開示する」ことの戦略的価値はむしろ高まっている。化学企業がGCPのようなフレームワークを活用し、自社素材の循環性データを積極的に開示する動きが始まれば、それはCE推進企業にとってスキーム構築の重要な基盤となる。
【オリックスの視点】“つなぐ”現場から化学産業への期待
CE実装の現場で見えてきたこと
オリックスグループでは、1998年より廃棄物の処理支援業務を手がけてきた中で、近年、企業ニーズの質的変化を肌で感じてきた*8。2023年にCE推進の専門組織を設置し、2025年には戦略的投資領域の一つとして「地球温暖化・限りある資源」をテーマに掲げた。現在は、幅広い事業展開を通じて多様な企業とのリレーションや静脈事業の経験・ノウハウを生かしたCEスキームを構築し、動脈産業と静脈産業をつなぐ「ハブ」や「接着剤」のような役割を果たしながら、具体的なCEビジネスの実装に取り組んでいる。この「つなぐ」現場に立つ中で、バリューチェーンの起点であり終点でもある化学産業の存在感を日々実感している。
循環スキームの構築事例──素材メーカーとの協業から
具体的な取り組みを紹介したい。AGCとの協業で構築した窓ガラスの水平リサイクルスキームである*9。集合住宅の改修工事で発生する廃棄窓ガラスについて、オリックス環境が回収とサッシの分離を行い、カレット業者が精製・品質確認を実施、AGCが新たな建築用板ガラスを製造するという一気通貫の仕組みだ。オリックスは、素材メーカーであるAGCに再生原料の受け入れ品質基準を明確化してもらうなど、「ハブ」として各社との調整を行い、スキーム構築に寄与した。アルミサッシの水平リサイクルにも同様のスキームを展開*10し、アルミ窓全体の循環利用を実現している。また、従来は焼却のうえ埋め立て処理していた錠剤包装シート(PTP)についても、アルミニウムとプラスチックを分離して、それぞれ資源として再利用するマテリアルリサイクル*11を実施している。
これらの経験から強く感じるのは、素材メーカーが「基準を受け取る側」でも「要求する側」でもなく、その実現方法を共に考えるパートナーとして関与するときに、初めて循環スキームは社会実装へと動き出すということだ。
動静脈連携のパートナーとしての期待
経済産業省の「成長志向型の資源自律経済戦略」では、動脈産業と静脈産業が有機的に連携する「動静脈連携」の重要性が示されている*1。
現場で実感するのは、CEの実現は一社では成し遂げられないということだ。中でも、素材の設計・供給から循環プロセスの最終段階まで関与する化学産業は、CEの成否を左右する重要なパートナーだと考えている。静脈産業が廃棄物処理業から「資源供給会社」へ進化しようとしている今、化学産業が共にスキームを構想するパートナーとして歩んでくれることが、CEの実装を加速させる大きな力になる。
オリックスグループでは、「CEから脱炭素まで」ワンストップでのサービス提供を目指す中で、化学産業との接点を広げていきたいと考えている。サーキュラーパートナーズ(CPs)をはじめとする産官学連携の場も活用しながら*12、CEへの志が高い方々との仲間づくりを進め、共に挑戦していきたい。
おわりに
化学産業はバリューチェーンの起点として、素材の設計・供給を通じてCEの成否を握る極めて重要な存在である。「ビジネスモデル転換」と「循環性の見える化・開示」、そして実装の現場から求められる「動静脈連携のパートナー」──この3つがそろったとき、CEは環境施策から真のビジネスへと進化し、日本の産業競争力を大きく押し上げることになるだろう。その実現には、動脈・静脈の枠を超えた多様なプレーヤーの連携が不可欠であり、化学産業がその中心的な役割を果たすことが期待される。
注釈・参考文献
*1 経済産業省「成長志向型の資源自律経済戦略」(2023年3月)。CEの定義および政策方針について。
*2 IDEAS FOR GOOD「サーキュラーエコノミーを加速させるビジネスモデル『PaaS(製品のサービス化)』とは?」

*3 日本自動車会議所「タイヤメーカー各社 運送事業者向けサブスク、2024年問題の一助に」。ミシュランのリトレッド・リグルーブを前提としたタイヤ設計について。また、ミシュラン「MICHELIN Tire Care」(2021年12月提供開始)、ブリヂストン「Mobox」(2021年4月提供開始)を参照。
*4 Ellen MacArthur Foundation, “Design and the circular economy” – 製品の環境負荷の約80%は設計段階で決定されるとの知見。
An introduction to circular design | Ellen MacArthur Foundation
*5 European Commission, Ecodesign for Sustainable Products Regulation (ESPR) および Digital Product Passport (DPP) に関する規則。
*6 WBCSD, “Global Circularity Protocol (GCP) for Business – Version 1.0″(2025年11月、COP30にて発表)。

*7 UNEP, Intergovernmental Negotiating Committee on Plastic Pollution (INC-5.2)。2025年8月ジュネーブ会合にて合意に至らず。その後、前議長辞任を受けINC-5.3(2026年2月7日)でチリのJulio Cordano大使が新議長に選出。実質交渉(INC-5.4)は2026年中に予定。
*8 MOVE ON(オリックス)「経済産業省とオリックスが語る循環経済のビジョン」(2025年6月)

*9 オリックス ニュースリリース「オリックスグループとAGC、国内初 窓ガラスの水平リサイクル事業のスキームを構築」(2025年3月25日)
https://www.orix.co.jp/grp/company/newsroom/newsrelease/pdf/250325_ORIXJ.pdf
*10 オリックスニュースリリース「アルミ窓全体の水平リサイクルを実現」(2025年6月2日)

*11 オリックスニュースリリース「錠剤の包装などに使用される『PTPシート』のマテリアルリサイクル事業を開始」(2022年11月9日)

*12 サーキュラーパートナーズ(Circular Partners: CPs)公式サイト。経済産業省が事務局を務める産官学連携プラットフォーム。


