「レアアース」日本海域でも発掘 期待に応える救世主となるか

コラム

現代産業に欠かせない「レアアース」が日本の領海でも見つかり、大きな話題になっています。
天然資源に乏しい日本では原材料の多くを輸入に頼るため、常に地政学リスクに晒されています。昨今もアメリカのイラン攻撃によってホルムズ海峡を通過する船舶がほぼ停滞状態に陥り、早くもガソリン高が始まっています。

レアアースに関してはその世界生産量・埋蔵量ともに、中国による一国覇権の状況です。こちらも、中国の関税政策により価格が大幅に高騰することもあり、日本の製造業は常に不安定な状態での経営を強いられてるとも言えるでしょう。

この状況に対して、日本産のレアアースはどんな希望をもたらすのでしょうか。

日本のEEZ内で発見されたレアアース泥

現在、日本の周辺海域等で存在が期待される鉱物資源の分布は下のようになっています。

(出所:経済産業省METI Journal「日本の海域に眠るレアアースや重要鉱物を探せ! 海洋資源調査船「白嶺」に潜入」)
https://journal.meti.go.jp/policy/202510/42071/

経済産業省の計画によれば、これまで計7つの鉱床で概略資源量5,180万5,000トンが把握され、さらに沖縄や伊豆・小笠原の海域で新たに7つの鉱床が見つかっています。

内閣府が引き揚げ成功を発表

そして2026年2月2日、政府は南鳥島沖の約6,000メートルの海底からレアアースを含むとされる泥の引き上げに成功したと発表しました。

南鳥島沖ではこれまでに、ジスプロシウムやネオジム、ガドリニウムなどの6種類以上のレアアースを高濃度で含む泥が見つかっています。このうちジスプロシウムやネオジム、サマリウムは電気自動車(EV)を動かすモーター用などの高性能磁石に、イットリウムは発光ダイオード(LED)や医療機器向け超電導体の材料になります。ガドリニウムは原子炉を制御するシステムなどに使われます。

成分分析そして精製に成功すれば、初の国産レアアース生産ということになるでしょう。

レアアース調達の現実

さて現在日本のレアアースの調達は、ほとんどを中国に頼っているという事実があります。

まずレアアースの国別生産割合と埋蔵量の割合は下のようになっています。

レアアース生産と埋蔵量の国別割合
(出所:第一経済研究所「対中関税戦争の代償となるレアアース1~中国の独占状態にあるレアアースを米国は捨てる覚悟か~」)
https://www.dlri.co.jp/report/macro/431667.html

まさに中国一強です。トランプ大統領の就任直後に米中が関税政策について揺れに揺れた背景には、レアアースの中国への依存の高さがあると見られます。
いわんや日本をや、ということで、日本のレアアース調達もほぼ中国一国依存の状態にあります。

日本のレアアース輸入元
(出所:日本金融経済研究所「中国の対日レアアース輸出規制 ― 経済安全保障の構造的脆弱性とサプライチェーン再構築の課題 ―馬渕磨理子」)
https://jrife.or.jp/post-833/

徐々にベトナムなどからの輸入が増えつつありますが、やはり中国依存です。

なお、中国からのレアアース輸入停止という事態が起きれば、日本の経済損失は3か月で6,600億円程度にのぼるという試算もあります。年間GDPを0.11%押し下げることになります。

(出所:野村総合研究所「中国が日本にレアアース輸出規制を導入した場合の経済損失」)
https://www.nri.com/jp/media/column/kiuchi/20251128_2.html#section-3

そういった意味では、国産レアアースの発掘は、非常に喜ばしいことです。

国内製造業にはどれだけの恩恵がある?

国内でレアアースを調達できるとはありたがいニュースですが、しかし過度な期待をしてはいけないというのが現段階でしょう。

日本のレアアース需要

新金属協会によれば、日本のレアアースの需要量は2024年で1万8,835トンにのぼりました。

今は日本での採掘はまだ試行段階と言えるでしょうが、一方で政府計画では2027年2月に大規模実験として1日あたり350トンの「泥」の回収能力を実証するといいます。

これが可能になったとすれば、350トン×365日=年間12万7,750トンの「泥」の採取が可能になります。単純計算でいけば、南鳥島南方の調査地点で見つかった泥は最高で6,500ppm(0.65%)超とされていますので、12万7,750トンの泥から得られるレアアースは実際には多くて年間8万3,037トンということになります。

量だけでいけば当面は凌げるのかもしれません。

精製は多工程

ただ、レアアースにも種類があること、そしてなにより精製の技術やコストの問題があります。
レアアースの精製過程は多岐に渡ります。たとえば磁石向けのレアアース元素を精製する過程は以下のようになっています。

  1. 海からレアアース泥を回収
  2. 南鳥島で脱水処理=泥の体積を約5分の1に
  3. 日本本土に持ち帰り、不純物を除去、抽出剤を使って目的のレアアース元素のみを取り出す過程を繰り返す
  4. 目的の元素のみが入った液にアルカリを入れ加熱、レアアース粉が完成
  5. レアアース粉を専用の液体で溶かし、電気をかけて金属化

内閣府のプロジェクト「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」では一連の過程の実証と経済性の評価をしているところで、2028年以降の産業化につなげるとしています。

しかし埋蔵場所が海底であり、中国のように安い人件費で陸上採掘できないことや、採掘以降の処理方法の低コスト開発を考えると、2028年からの商用化というのは早い気がします。

経済安全保障の糸口となるか

なお今年に入って、群馬県の山中でもレアアースを含む4種類の新たな金属が発見されました。

経済安全保障の観点から見れば、日本でレアアースを採取できることは大きなメリットでしょう。ただ今後、中国との関税バトルを繰り広げているトランプ政権から狙われ何かしらの交渉を求められる可能性もありますし、中国からの禁輸圧力も強まる可能性があります。

せっかくの資源をいかに守り抜くか、外交手腕も今後求められていくことでしょう。

清水 沙矢香(しみず さやか)
2002年京都大学理学部卒業後TBSに入社、主に報道記者として勤務。社会部記者として事件・事故、テクノロジー、経済部記者として国内外の各種市場、産業など幅広く担当し、アジア、欧米でも取材活動にあたる。その後人材開発などにも携わりフリー。取材経験や各種統計の分析を元に各種メディア、経済誌・専門紙に寄稿。
趣味はサックス演奏と野球観戦。