ナフサ急騰が押し上げた化学会社の利益 26年度第1四半期決算を読み解く鍵は「在庫評価益」にあり

コラム

 国内化学会社(3月決算)の26年度第1四半期決算は総じて好調であり、25年度第1四半期と比べて営業利益が大幅に改善し、市場予想を上回る決算も相次ぎました。
 こうした好決算の背景として、AI関連需要に伴う高機能材料の販売拡大や構造改革などが挙げられます。しかし、26年度第1四半期の特殊要因として見逃せないのが、ナフサ価格急騰によって発生したとされる「在庫評価益」「在庫受払差」「在庫影響」などの存在です。

ナフサ価格はわずか3か月で約8割上昇

 石油化学産業の主要原料であるナフサ価格は、25年度を通じて概ね6万円台で推移していました。しかし、26年3月以降に中東情勢の緊迫化を受けて原油価格が急騰した結果、26年4~6月の国産ナフサ価格は118,900円/klとなり、前四半期比で53,200円/kl、率にして約81%と大きく上昇しました。

期間国産ナフサ価格
2025年4~6月66,300円/kl
2025年7~9月63,200円/kl
2025年10~12月65,600円/kl
2026年1~3月65,700円/kl
2026年4~6月118,900円/kl
(出典:財務省貿易統計)

こうした急激なナフサ価格上昇がどのように化学会社の業績に影響を与えたのでしょうか。

いわゆる「在庫評価益」とは何か

「在庫評価益」という言葉から、棚卸資産を時価評価して利益を計上しているように聞こえるかもしれませんが、実態は異なります。企業会計基準第9号「棚卸資産の評価に関する会計基準」第7項では、通常の販売目的で保有する棚卸資産は取得原価をもって貸借対照表価額とし、期末の正味売却価額が取得原価を下回る場合には、その正味売却価額まで帳簿価額を切り下げることとされています。したがって、市況が上昇したことだけを理由に、棚卸資産の帳簿価額を取得原価より上に切り上げるものではありません。

 では、何が利益をもたらしたのでしょうか。この点について、化学会社の特性を踏まえつつ、棚卸資産価額と販売価格の観点で考えていきたいと思います。

 化学会社では、異なる時点に異なる価格で購入したナフサなどの原料をタンク等でまとめて保管し、連続的に製造工程へ投入することがあります。このような在庫管理や原価計算の実態を踏まえ、総平均法又は移動平均法による平均原価法を採用している例が多くみられます。

 平均原価は、一定期間の仕入価格を平均化する総平均法や、仕入れの都度平均単価を更新する移動平均法によって算定されますが、期首在庫を含む平均単価、在庫回転期間、原価計算期間によって、直近の市況価格と売上原価単価に差が生じ得ます。26年3月以降原油価格が上昇しましたが、26年3月時点の国産ナフサ価格はまだ6万円台だったことから、26年度期首に保有する棚卸資産価額は高騰前の安いナフサ価格に基づいていたと考えられます。26年度第1四半期においては、期首に価格上昇前の在庫を相当量保有していた会社では、期首在庫と価格上昇後の仕入れを含む平均単価が、足元の調達価格を下回った可能性があります。その場合、足元のナフサ価格の上昇が売上原価へ反映されるタイミングが遅れることになります。

 一方の販売価格に関して、特に上流の事業においてはナフサ価格が製品原価の重要な変動要因であり、化学会社自身がコントロールできない市況変動を客観的な指標に基づいて販売価格へ反映する必要があるため、足元のナフサ価格に連動して販売価格が変動するフォーミュラ方式が採用されていることが多いです。もっとも、販売価格改定の頻度や参照期間は契約によって異なるため、ナフサ価格の変動を販売価格へ反映するのに通常は一定のタイムラグが生じますが、中東情勢によるナフサを含む原燃料の価格高騰を受けて各社は早期の価格改定に取り組んでいます。そのため、26年度第1四半期の売上高には、高い原燃料価格に連動した販売価格に基づき計上されている部分が一定程度存在すると考えられます。

 このように、26年度第1四半期においては、ナフサ価格が6万円台だった時期に取得した分を含む安い原料から製造された製品を、原燃料価格高騰を受けて改定された部分を含む価格で販売することとなった結果、売上高と売上原価の間に通常よりも大きな差額が生じ、多額の利益が計上されたと考えられます。各社の決算資料では当該差額について、「在庫評価益」「在庫受払差」「在庫影響」といった呼称が使用されている場合がありますが、その実態は紛れもなく販売活動の結果として実現した利益ということになります。

実際にどの程度利益を押し上げたのか

 国内にエチレンプラントを保有している場合、ナフサ価格高騰の影響が特に大きいと考えられます。該当する化学会社5社(3月決算)の決算資料によれば、いずれも営業利益が前年同期から大きく増加しており、なかでも基礎化学品を取り扱うセグメントの営業利益に大きな改善が見られました。また、営業利益改善要因として、定量的・定性的に原料価格上昇による在庫影響が挙げられていました。

会社及びセグメント25年度第1四半期
営業利益
26年度第1四半期
営業利益
対前年同期
営業利益増減
三菱ケミカルグループ(連結コア営業利益)566億円1,141億円+575億円
(うちベーシックマテリアルズ)(△67億円)(148億円)(+215億円)
三井化学(連結コア営業利益)266億円501億円+235億円
(うちベーシック&グリーン・マテリアルズ)(△29億円)(198億円)(+227億円)
住友化学(連結コア営業利益)277億円623億円+347億円
(うちエッセンシャル&グリーンマテリアルズ)(△55億円)(272億円)(+327億円)
旭化成(連結営業利益)537億円813億円+277億円
(うちマテリアル)(149億円)(388億円)(+239億円)
東ソー(連結営業利益)161億円312億円+151億円
(うち基礎素材)(△34億円)(57億円)(+90億円)
(出典:各社26年度第1四半期決算説明資料)

次の四半期以降は逆風になる可能性も

 もっとも、この利益は持続的なものではなく、一時的なものと考えられます。なぜなら、第2四半期以降は高値で購入したナフサをベースとする棚卸資産が積み上がり、将来の売上原価となる一方で、今後ナフサ価格が下落局面になれば、販売価格が低下することによりマイナスの在庫受払差が発生し、第1四半期で計上した在庫評価益とは反対方向の在庫影響が生じる可能性があるためです。
 また、ナフサ価格高騰に伴う需要の減退や設備稼働率の低下といったリスクもあります。
 今回の好決算は、ナフサ価格急騰という特殊な市況によってもたらされた一過性の側面があるため、その点を踏まえて各社の決算を読み解くことが重要です。

佐藤 勝俊
EY新日本有限責任監査法人 公認会計士