AIの普及で、現在あるいは次世代のコンピュータにはより多くのメモリが求められるようになっています。
しかし世界的には、半導体不足による価格上昇や消費電力の問題が立ちはだかっているのが現状です。
これらの問題をどう解消していくのか。
実は「シイタケ」にある特徴が見つかり、研究者は期待しています。一体どういうことでしょうか。
半導体市場のトレンド予測
AIによるリアルタイム処理の需要増や5G・6G技術の普及によって、世界中のデータ通信量は指数関数的に増加しています。
日本経済研究所によれば、2040年には2020年の100倍にのぼるという試算です。

https://www.jeri.or.jp/survey/202506-07_15/
自動車、医療、インフラ、宇宙開発など、ありとあらゆる分野で半導体が求められ用途が広がるために市場規模も急拡大します。2022年には約4,300億ドルであったところから年平均成長率(CAGR)6〜7%のペースで伸び、2030年には約7,800億ドルを超えると予測されています。

https://www.jeri.or.jp/survey/202506-07_15/
DXへの流れもまた、半導体の消費量を後押ししています。
消費電力量という課題も
一方、これは従前から指摘されていることですが、半導体を大量に扱うデータセンターの消費電力が大きな課題になっています。
具体的な数字を見ると、驚くかもしれません。
IEAの見通しによればデータセンターの電力消費量は2030年までに約9,450億kWhと、2024年の水準から倍増するとのことです。
これは、現在の日本の総電力消費量を上回る規模です。
コンピューティングにもサステナビリティが求められています。
「シイタケ」がメモリに?
次世代のコンピューターにおいては、「メモリスタ」と呼ばれる記憶素子が注目されています。これは電気的な状態を記憶できる優れた素子ですが、製造には希少な鉱物や大規模な半導体工場を必要とします。
一方で研究チームが公表したのは「シイタケ」がメモリスタの役割を果たした、とする論文です。

https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0328965
もちろんこれは、私たちがよく口にする、あの「シイタケ」の菌を培養したものです。
研究チームはシイタケとマッシュルームを標準的なペトリ皿で培養し、十分に成長した菌糸を天日干しで乾燥させて保存しました。この乾燥保存の過程で、菌糸は硬いディスク状の構造へと変化するといいます。
菌類コンピューティング?
注目されているのは菌類の特性です。
シイタケメモリスタの技術が確立されれば、シリコンベースのチップに匹敵する性能を持ちながら、待機時や機械が使用されていないときに多くの電力を必要としなくなります。この特徴はエネルギー効率が最優先されるロボットや自動運転車において特に有益です。
メモリスタに求められるのは「人間のような意思決定や学習プロセスを模倣できる」ことです。
その意味では、菌類は菌糸の相互接続ネットワークを通じて情報を効率的に処理する生来の能力を備えています。これらの特性により、菌類は持続可能なコンピューティングシステムを開発するための理想的な候補になるといいます。チームの目標は、エネルギー消費を大幅に削減し、電子廃棄物を最小限に抑えることができる新しい菌類メモリスタベースのコンピューティングアーキテクチャを設計および実装することにあります。
また、菌類はさまざまな環境条件に適応できるという魅力を持ちます。かつ、生分解性もあります。また、この研究では、メモリスタ使用時には霧吹きで水分を補給することで、電気的特性が復活するという仕組みだということです。常時電源を供給しなくても良いという特徴は、電力消費を大幅に下げることでしょう。
実用化に至るまでには長い時間がかかることでしょうが、いずれ世界が真剣に考えなければならない問題かもしれません。
CPUの世界では「脳」で競争
また、AIのメモリに関しては、「脳オルガノイド」の研究も進んでいます。人の脳細胞を培養しコンピュータと繋ぐことで、簡単なコンピュータゲームをプレイすることができたという話があります。
なお「脳オルガノイド」とは人間から脳を取り出したものではありません。
ES細胞やiPS細胞を単一の神経細胞に分化させるだけでなく、複数の細胞からなる三次元組織として分化誘導し、脳組織の一部を再現したものです。
「GPT-3」(GPT-4の前身)のようなLLMをひとつトレーニングするために必要な電力量は約10GWhで、これは欧州市民が1年間に使用するエネルギーの約6,000倍に相当するといいます。これに対して、約860億個の神経細胞が働くヒトの脳の消費電力はわずか20Wほどです。消費電力を大きく削減できる可能性があるのです。
とはいえ、脳を培養したオルガノイドはどこまでの正確性を持つのか、また、培養が続きオルガノイドが成長していけばいずれ意識を持ち始めるのではないか、という倫理的な議論が今後発生しそうです。
また、2つとして同じ行動をとるオルガノイドがいないといいます。また、長期間生かしておくことも現時点では難しいということです。
この点では、もしかするとシイタケのほうが現実的なのかもしれません。
日本は流れにどう乗るか
生体メモリの開発はいま、国内外で始まっています。
「日の丸半導体」が落ち目だと言われる中、一方で半導体材料や製造装置では日本は高いシェアを誇っています。
その高い技術を生かして、ここでも世界を驚かせる発見を続けたいものです。
そのためには産官学の連携も必須となるでしょう。


